カリス姫の夏

ここまできても、現実と向き合う事ができない。そんな、ふがいない私の手を藍人くんは引っ張り、みゅーの身体に押し付けた。


「莉栖花さん!
彼女のポケット捜して。
ブドウ糖持ってるかもしれないから。
持ってるならその方がいい!!」


藍人くんの言葉の意味など、理解しきれていない。指示されるがままロボットのように動くだけで、精いっぱいだ。私はみゅーのポケットをさぐり、藍人くんはみゅーのバックをひっくり返した。


華子さんはもらったアメを手にしながら、2人の動向を待っている。ブドウ糖が見つかることを願っている。


サマーカーディガンのポケット。手を入れると、小さな紙くずが触れた。取り出すと小さな袋に青く『ブドウ糖』の文字が。


「こっ……これ?」

震える唇からは、これ以上の言葉は発せられない。人差し指と親指で小袋をつまみ、顔の高さに上げた。


華子さんはパッとひったくるように奪い取り、無造作に袋を破る。中からは十円玉ほどのタブレットが現れた。そのタブレットは、素早くみゅーの口に入れられる。


ブドウ糖を含み、もぐもぐと動くみゅーの口元を見守ることしかできない。私達はもちろん、野次馬達も息を飲んだ。


数分たったのか、数秒だったのか。みゅーの手の震えは徐々に消え、汗も引いていった。顔にみるみる生気が戻るのが、私の目にも明らかだ。


みゅーが薄く目を開けると、周囲の観客からは、ほうぉっと安堵のため息がもれた。

みゅーも、今ある状況に気づいたのだろう。顔を動かさず、黒目だけキョロキョロと動かと、すっかり色を失っていた頬が、赤らんだ。


「ねえ、見てよ。
私達、今、織絵ルーナより注目されてない?」


おどけてウインクするみゅー。そんな表情にやっと緊張から解放された私は、みゅーのおでこをパチッと叩いた。

「バカッ」
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