カリス姫の夏
*****


みゅーと華子さんが乗った救急車を見送り、残された2人はタクシー乗り場に向かって歩いた。しばしの沈黙の後、私はふっと疑問が浮かんだ。


そう、何よりもこれを確かめなければ。


「ねえ、藍人くん。
なんで?
なんでここに来てたの?」


藍人くんは照れたように頭を掻きながら、私を見た。

「僕、実は昨日……
病院に来てて。
あの子が入院してる……」


「えーー?!なんで?」


「おととい、ほら、結婚式場から病院もどって、あのおじさんを病室に送った後、莉栖花さん隣の病室に顔だして『明日、1時にここ来るから』って約束してたじゃないですか。

僕、なんか心配で…。
こんなことあった後だし、また写真撮れらんじゃないかって。

それで、僕も病院に来てたんです。
帰りもそっと着いてって。
バス乗るとこまで見送って。

で、帰ろうとしたらあの子に呼びとめられて『莉栖花の友達でしょ』って。
なんで分かったのかな。

で『明日夕方4時に織絵ルーナ展に行く』って教えられたんです。
それ聞いたらやっぱり心配になっちゃって。

だって、あの人ごみですよ。
自殺行為ですよ、こんな時に!!」

と、藍人くんの口調はいつになく厳しい。


「……ごめんなさい」


小さい体を更に縮め、私はそれ以上なにも言えなかった。

勝手に人の後、着けてこないでよ、やら、聞きたい事があるなら直接聞いてよ、やら、言いたい事は山ほどある。でも、今の私はそんな大それた主張できる立場にない。なにより、藍人くんの言うことも一理ある。


友達との外出に浮足だっていたのは、実はみゅーではなく私の方だったのかもしれない。トラブルの渦中にありながら、どこか他人事にような、他人事にしたいような浮ついた気持ちがそうさせていた。

そして、結局はみゅーの体調を崩す原因を作ってしまった。


反省で満ちる私の心を読んだのか、藍人くんは大人の顔でポンッと私の頭を軽く叩いた。



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