カリス姫の夏
タクシー乗り場には、数人が列をなして、車両の到着を待っていた。タクシーの迎車が間に合わないらしい。列の最後尾に付き、2人は並んで立った。


藍人くんとのツーショットは、まだ居心地が悪い。合わないパズルのピースを無理やりはめ込んだような、しっくりこない違和感が残る。そんな気まずさに藍人くんも気づいたのか、その隙間を埋めるように話しかけた。


「あのー、えっとー。
僕も調べたんです。
なんで急にカリス姫が話題になったのか。
動画さらしてる人に訊いたり、元ネタ探ったり……
でも結局、明確な答えは出なくって」


「ううん、いいの。
藍人くんががんばってくれたから、画像はずいぶん消されたみたいだし。
そのうち、みんな忘れるよ。
なんでこんなことになったのか、ちょっと気持ち悪いけどね」

と笑顔を作ったが、綺麗な笑顔にはなっていなかったろう。時間だけでは解決しきれないモヤモヤを察したのか、藍人くんは慎重に言葉を選んだ。


「そうですよね。
ただ、いくつか分かったことがあって……
わりと短時間に広がったみたいなんです。
夏休み入ってしばらくして……位かな。

なんか、こう、おっきなネットワークの中心人物がカリス姫の事を広げたっていうか……
これだけ短時間で広がったっていうことは、かなりの組織力だと思うんですけど。

でも、やっぱり目的が分からないですよね。
好意なのか……
あ…く…いなのか……」


藍人くんは最後の言葉をうやむやにしようと、言葉を濁したが、私の心にはしっかり届いた。

そう、私も気づいている。どう考えても『悪意』の可能性が高いだろう。事実、今現在、私がこれだけ悩んでいるのだから。


顔の見えない人物に、身に覚えのない恨みを買い、復讐される。これほど恐ろしいことはない。


タクシーは次々とやって来て、乗客を乗せては立ち去っていった。次で私達の番になった時、藍人くんはもう一つ大切な情報を提供してくれた。


「それから……分かった事があって……

画像載せてた1人がツイートしてたんですけど
『K様が喜ぶな』って」


「K様?」


「そうなんです。
でも、それが誰なのかまでは分かんなくって。
Kって言ってもイニシャルなのか、暗号なのか……ハンドルネームなのか……」


K様………
K様………


私のコンピューターで検索をかけた。しかし、狭義にすると全く引っかからず、広義にするとデーターが多すぎて特定する事ができなかった。
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