カリス姫の夏
総一郎師長は普段なら言い返すだろうに、今日はぐうの音もでない。下唇を色が変わるほど噛みしめた。
自分自身の責務を全うできなかった、くやしさなのか。部下の失態を今さら知った、羞恥心なのか。社会的責任なんてまだ未知の世界の私なんかに、その真意は推し量れない。
けれども、その全てを怒りとして放出している管理職の姿がそこにあった。
華子さんの手が離れるやいなや、総一郎師長は地響きのような大声で叫んだ。
「おい!
この書類作ったの誰だ!!」
周囲の物が全て凍りつく。キーンと張りつめた空気が、病棟中を駆け巡った。
「え……あっ…あの……えっと……わたしが……あれ?
でも……変だな。
あの……でも……」
1人の若いナースが今にも泣きそうな顔で、捨てられた子猫のようにびくびくしながら師長に近寄った。ナースステーションにいた他の看護師達も緊張からかテーブルの上の書類を見つめながらもそのペンを走らせることはできない。皆、石こうのように固まっている。
華子さんはフッと鼻を鳴らし、言いたいことは言ったと胸を張ると、踵を返しナースステーションを出た。
自分自身の責務を全うできなかった、くやしさなのか。部下の失態を今さら知った、羞恥心なのか。社会的責任なんてまだ未知の世界の私なんかに、その真意は推し量れない。
けれども、その全てを怒りとして放出している管理職の姿がそこにあった。
華子さんの手が離れるやいなや、総一郎師長は地響きのような大声で叫んだ。
「おい!
この書類作ったの誰だ!!」
周囲の物が全て凍りつく。キーンと張りつめた空気が、病棟中を駆け巡った。
「え……あっ…あの……えっと……わたしが……あれ?
でも……変だな。
あの……でも……」
1人の若いナースが今にも泣きそうな顔で、捨てられた子猫のようにびくびくしながら師長に近寄った。ナースステーションにいた他の看護師達も緊張からかテーブルの上の書類を見つめながらもそのペンを走らせることはできない。皆、石こうのように固まっている。
華子さんはフッと鼻を鳴らし、言いたいことは言ったと胸を張ると、踵を返しナースステーションを出た。