カリス姫の夏
みゅーは肩をすくめて黙った。2人の会話中も、華子さんは頭を上げない。


私は心が痛んだ。


もともと、今日は華子さんにボランティアしてもらっただけ。忙しい華子さんを無理言って連れ出し、せかしてゆっくり申し送りを聞く時間もあげられなかった。しかも、今日の外出は私がみゅーを誘ったんだ。


「ごめんなさい。
みゅー、おばさん、華子さん。
わたしが悪かったの。

みゅーの病気のこと、よく知らないのに軽い気持ちで誘っちゃって」


反省からしょんぼりする私に、みゅーはちょっぴり淋しそうな笑みを浮かべた。


「謝んないでよ、莉栖花。
糖尿病だなんておばあちゃんの病気みたいで恥ずかしくて言えなかったの。
低血糖、ほんと、ずっとおきてなかったから私も忘れてて。

ブドウ糖も、ついてく看護師さんに預けなさいって言われてたんだけど、大丈夫って思っちゃったんだよね。

だからさ、自業自得。
ごめんなさい、華子さん」


みゅーは華子さんに頭を下げたが、華子さんは微動だにしなかった。


みゅーは続けた。

「でもね、今日は本当に楽しかった。
入院ももう4か月近くになっちゃって、2年生になってすぐに入院したからクラスにも友達ほとんどいないし……

最初の頃は友達もお見舞いに来てくれてたんだけど、だんだんみんな忙しくなっちゃって……ね。

だから、今日は舞い上がっちゃったのかな。
失敗しちゃった。
でもね、お願い。
また来てね」


みゅーの初めて見せた、すがるような表情。そんなみゅーに、私は言葉もなくうなづくことしかできなかった。


華子さんはうつむいたまま「それでは」とだけ言い残し、病室を出た。


みゅーの言葉に少し気持ちが落ち着いたのか、お母さんは初めて優しい笑顔を作った。


「また来てちょうだいね。
今度外出するときは、絶対私もついてくから」


そう言うお母さんの陰で、ペロッと舌を出すみゅー。そっくりな親子に別れを告げ、私も病室を出た。
< 234 / 315 >

この作品をシェア

pagetop