カリス姫の夏
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病院前のバス停、ベンチ。
3人並んで座りながら、やはり言葉は一言も発せられない。
華子さんは何を考えているのか定まらない視線を、何もない遠くの景色に向けている。隣の私も目的もなく、時折左右の2人の様子をうかがう。藍人くんは何か気になる事を調べているのか、ずっとスマホを操作している。
到着時刻を過ぎても来ないバスを待ちながら、時間を確認しようと携帯を開く。
もう7度目だ。
スマホを見つめる藍人くんは「莉栖花さん」と、私の名前を呼んだ。
「落ちついて。
落ちついて聞いてください。
……
莉栖花さんの……画像が……
今度は動画が流出しています。
しかも………複数」
「えっ?
新しいのが?!」
一瞬目の前が真っ暗になる。動悸が自分の左腕にまで伝わった。
藍人くんのスマホは私の手に渡されたが、緊張で力が入らず危うく落としそうになる。
動画を見ると、それはいつどのようにして撮られたのかすぐに分かった。先日、娘さんの結婚式に出た大川さんに同行した時。石井さんの介護タクシーに乗る私の横顔が、動画になっている分、静止画よりもはっきりと映っている。
他にもあるはずと、そんな予感が理由もなくよぎった。手のひらに収まるスマホを持ち主の許可なく操作すると、信じがたい書き込みが。
「こ……
これって……」
私の開いたサイトに気づき、藍人くんは焦ってスマホを取り返そうとした。彼はすでにチェック済みだったのだろう。
それは、ネットの住人がなんの根拠もないのに『にゅ〜す』だと胸を張る書き込み。
題名は
『カリス姫降臨 リアルで会ったら意外とwwww』
カリス姫とリアルでも会ったと主張する自称『名無しの明太子』は、リアルのカリス姫とどのようにして出会ったのかをまことしやかに説明した。他の住人達からの質問をはさみながらの会話は、異様なほど、リアリティがある。
それだけでは飽き足らず、後半にはラインの画面がスクリーンショットで貼り付けてあった。