カリス姫の夏
------
名無しの明太子
『今度リアルで話ししようよ』
カリス姫
『リアルのわたしはお姫様じゃないよ』
名無しの明太子
『名前教えて』
カリス姫
『リスカっていうの
誰にも言わないでね』
名無しの明太子
『リスカちゃん
リアルで会おうよ』
カリス姫
『うーん 1回だけならいいかなー』
名無しの明太子
『WWWW
じゃあ×××××に来て
明後日11時に××××の前で待ってるから』
-------
その下には住人達の『カリス姫 カルイ』やら『アホやな こいつ』やら、偽カリス姫の中傷が続いている。
「わたし……こんな会話して……
こんな会話してない」
震えるように細かく首を振り続ける私に、藍人くんは
「分かってます。こんなの創作ですよ。
分かってます」
と何度も繰り返した。
「そんなこと……」
できるの?と言いそうになり言葉を飲み込んだ。
できる。こんなこと、簡単に。
さしてネットの知識が無くったって、アイコンの乗っ取りなんてまどろっこしい事をしなくったって、この程度の創作なんてできる。いくらでもできる。
でも、これを見た人はどう思うだろう。
アイコンにカリス姫の映像を切りはりし、IDや特定できる場所などは塗りつぶすなどさして芸が細かい訳ではないが、現実味は十分ある。これが本当のカリス姫だと……いや、リアルの私だと信じる人もいる、というより信じる人の方が多いのかもしれない。
私の分身、カリス姫は私の手を離れ、好き勝手し始めた。それがリアルの私と繋がらないのであれば、どうぞご自由にという所なのだが、たくさんの人数を釣るためには、リアルの私とも少なからずリンクさせる必要があるらしい。
どんなネットワークを使ったのか知らないが、私の名前を調べ載せるだけでリアリティは格段に増す。
こんな手法、ネットでは見飽きてる。他人事ならさして興味も持たない話題だが、自分の身に関わった途端、鳥肌が立つほどの悪心(おしん)に襲われた。
「ごめんなさい。
僕が……僕が守るって言ったのに」
動揺する私を見ているのも、辛いのだろう。
藍人くんはつぶやくと、くやしそうに奥歯を噛みしめた。ギュっと握り太ももに置かれた手は、小刻みに震えている。
そして、その目は兎のように赤くにじんだ。
「藍人くん……
なっ……」
『泣いてるの?』と聞きそうになる。でも、言ってはならない。それだけは、言ってはならない。
そんな藍人くんの姿が、私の眠っていた感情を叩き起こした。スマホを見ていた私に湧いて出た感情とは、別物だ。
今まで感じた事のない、息苦しいほどの感情。
それが今にも爆発しそうになる。
「なんで……
なんで、藍人くんが……」
名無しの明太子
『今度リアルで話ししようよ』
カリス姫
『リアルのわたしはお姫様じゃないよ』
名無しの明太子
『名前教えて』
カリス姫
『リスカっていうの
誰にも言わないでね』
名無しの明太子
『リスカちゃん
リアルで会おうよ』
カリス姫
『うーん 1回だけならいいかなー』
名無しの明太子
『WWWW
じゃあ×××××に来て
明後日11時に××××の前で待ってるから』
-------
その下には住人達の『カリス姫 カルイ』やら『アホやな こいつ』やら、偽カリス姫の中傷が続いている。
「わたし……こんな会話して……
こんな会話してない」
震えるように細かく首を振り続ける私に、藍人くんは
「分かってます。こんなの創作ですよ。
分かってます」
と何度も繰り返した。
「そんなこと……」
できるの?と言いそうになり言葉を飲み込んだ。
できる。こんなこと、簡単に。
さしてネットの知識が無くったって、アイコンの乗っ取りなんてまどろっこしい事をしなくったって、この程度の創作なんてできる。いくらでもできる。
でも、これを見た人はどう思うだろう。
アイコンにカリス姫の映像を切りはりし、IDや特定できる場所などは塗りつぶすなどさして芸が細かい訳ではないが、現実味は十分ある。これが本当のカリス姫だと……いや、リアルの私だと信じる人もいる、というより信じる人の方が多いのかもしれない。
私の分身、カリス姫は私の手を離れ、好き勝手し始めた。それがリアルの私と繋がらないのであれば、どうぞご自由にという所なのだが、たくさんの人数を釣るためには、リアルの私とも少なからずリンクさせる必要があるらしい。
どんなネットワークを使ったのか知らないが、私の名前を調べ載せるだけでリアリティは格段に増す。
こんな手法、ネットでは見飽きてる。他人事ならさして興味も持たない話題だが、自分の身に関わった途端、鳥肌が立つほどの悪心(おしん)に襲われた。
「ごめんなさい。
僕が……僕が守るって言ったのに」
動揺する私を見ているのも、辛いのだろう。
藍人くんはつぶやくと、くやしそうに奥歯を噛みしめた。ギュっと握り太ももに置かれた手は、小刻みに震えている。
そして、その目は兎のように赤くにじんだ。
「藍人くん……
なっ……」
『泣いてるの?』と聞きそうになる。でも、言ってはならない。それだけは、言ってはならない。
そんな藍人くんの姿が、私の眠っていた感情を叩き起こした。スマホを見ていた私に湧いて出た感情とは、別物だ。
今まで感じた事のない、息苦しいほどの感情。
それが今にも爆発しそうになる。
「なんで……
なんで、藍人くんが……」