カリス姫の夏
会社員の帰宅とは逆方向になる路線バスは、ガラガラだった。
乗客は藍人くんと私。
それに、夜の仕事でもしているのか派手な化粧で薄いワンピースを着た若い女性の、3人だけだ。
座席は当然空いていたが、なぜだか座る気になれず、私達2人は吊革につかまり立っている。そんな若い2人を不審な顔で見る運転手と、ミラー越しに目が合った。
「ねえ、莉栖花さん。
犯人見つけるって、一体どうするつもりなんですか?」
バスを乗る前からずっと沈黙を守っていた藍人くんが、やっと口を開いた。私の顔を見る視線を感じる。
けれども私は藍人くんの方に顔を向けず、ただ窓の外、バスを追い越していく乗用車をじっと眺めていた。
「藍人くん。
ネットばっかりしてきたわたしの強みって分かる?」
「えっ?
えーと
あのーー」
私の突拍子もない質問を、真剣に考える藍人くん。彼は自信なげに答えた。
「うーん、SNSの仲間?
そこで、できたネットワークですか?
それとも、ネットの知識……とか」
「うん、まあそれもあるけど……
わたしの強みはね、欲しい情報、見たい動画があったらネットサーフィンして、どこまでもどこまでも追いかけて行く、そのしつこさなのよ!」
と言い切る答えがあまりにも期待外れだったのか、藍人くんは「はぁ」と間の抜けた返事をした。