カリス姫の夏
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我が家で私の帰宅を待っていたのは、お母さんと夕食のオムライスだけだった。お父さんはまだ仕事から帰っていないらしい。
ちゃっちゃと手を洗いダイニングに入ると、私は『ただいま』の代わりに
「お母さん、夕食自分の部屋で食べるから」
と、言った。
ダイニングテーブルに置かれた大皿とスプーンを手にすると、レンジで温める手間さえはぶく。今はその1分30秒が待てない。
台所で後片付けをしていたお母さんは
「ご飯くらい下で食べなさい!!」
と、目をつり上げた。
「ごめん、今日だけ見逃して。
今がね、シューネンバなのよ」
そう言い訳する私の右足は、ダイニングからリビングへと移動している。それどころか、心はすでにパソコン前だ。そんな私を逃すまいと、母は台所から追いかける母の執念には感服する。
「何えらそうに言ってるのよ。
正念場って漢字で書けるの?」
「えーー?
パソコンで打ったら出てくるもん。
とにかく、今日だけ。
お願い」
「今日だけって………
あんたねー、夏休みだってそろそろ終わるっていうのに……」
今はお母さんと議論する時間もない。
「あーー。
テレビにイ・ビョンホン出てる」
私がテレビをあごで指すと、お母さんは頬を赤らめ「えっ?ほんと?」と振り返った。
「ちょっと、これ、ハラダタイゾーじゃない。
待ちなさい。
話終わってないわよーー」
心の中で手を合わせたが、足は階段を駆け上っている。階段途中で母の小言も聞こえなくなった。無機質な勉強部屋に入り、室内灯をつける。部屋は待ってましたと言う代わりに、私を持っていた荷物ごと丸々飲み込んだ。