カリス姫の夏
勉強机の本棚には新品のようにきれいな教科書と数ページしか書かれていないノートが並ぶ。そしてその前には、この舞台の主役だと言いたげに堂々と胸を張るノートパソコンが置かれていた。


けれども、パソコンはうっすらとほこりをかぶり、一時の栄光は影をひそめている。自分の写真が流出していることを知ってからどうしてもネットをする気になれず、パソコンを開いていなかったためだ。


私はバックからペットボトルを取り出し、水をゴクリと音を立てて飲んだ。これが、気持ちを落ち着かせる儀式のようなものだ。


「わたし、戦わなきゃ」

数日間の休暇を余儀無くされているパソコンに向かい合い私はそう、つぶやいた。


私は逃げてはいられない。
そうだ、前に進まなきゃ。


ノートパソコンの画面を慎重に開き、電源ボタンに右手の人差指を乗せた。心なしかその指が震えている。


『よしっ』と気合いを入れ、指に力を入れた瞬間……
カバンに入れっぱなしだったスマホから音楽が流れた。


私の心臓はドキッとし、電話にでると開口一番
「もう、藍人くん。タイミング悪すぎー」
と文句を言ってしまった。


かわいそうに
「すいません。
ごめんなさい。
後でかけなおしますね」
と、おどおどし謝る藍人くん。


「いいよ、なんかあった?」
と、偉そうな私。


いけない!
ここ数日で華子さんに似てしまったのかも……
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