カリス姫の夏
私の口から『ごめんね』と素直な言葉が出るのを待たず、藍人くんは話し出した。


「僕、莉栖花さんの言う通り、チャットルームに入り込んだんですけど……
えっと……
織絵ルーナ関連で、スレッド立ててるとこに」


「仕事早いね。
もう家、着いたの?」


「いえ、別れてからバスの中で始めて。

いくつかあったんですけど、レスの書き込み頻繁で集まってる住人多そうな所、選んで入ったんです。
で、言われた通りさりげなくカリス姫の話題出したら釣れた人が何人か……

やっぱりK様って名前が出たんで、知ってるフリして会話してたんです。
それで分かったのはそのK様がカリス姫の動画を気にいって、そのことに周りの人が気づいて……
で、自主的にカリス姫の情報を探ってたらしいんです。

そいつらの話によると、K様はかなりの……こう、カリスマ性があるっていうか、人気あるっていうか……
けっこうな人数の人に指示されてるみたいで……

それに、みんな口を揃えて言うのは『頭がいいから』って。

でも、そこまでなんですよ。
しつこく聞いてたらなりすましだってバレちゃって。
居ずらくなったんで退室したんです」

と、藍人くんの声は沈んだ。


「うん、いいの。
ありがとう。
じゃあさ、今度は違うとこ入ってみて。
今度はさ、女子のフリして。
またなんか情報あったら連絡ちょうだい」


「はい、分かりました」
と電話を切ろうといた藍人くんは、思い出したように

「あっ、それから……
僕、カリス姫の動画の再生回数、毎日チェックしてて……
グラフにしてたんで送りますね」

と、付け加えた。


「毎日チェックしてくれてたの?
わたしより熱心だね。
うん、ありがとう」

電話を切ると、ほどなく折れ線グラフが添付されたメールが届いた。
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