カリス姫の夏
プロファイリングはできている。


『K様』
『かなりの大きな組織力を持っていてカリスマ性がある』
『頭がいい』
『自由になる時間を多く持っている』


ずっと心の隅に引っかかりながら、必死で否定してきた人物がいる。

でも………まさか。


ぶるんぶるんと思いっきり頭を振り特定の人物の記憶を振り払った。先入観を持ったままでは、真実を見失う。

私が再びパソコンの電源に指を置くと、タャララランと音を奏でてパソコンは息を吹き返した。


静止画は藍人くんが必死で消すよう努力してくれたから、今さら追いかけるのは難しい。

それよりも動画。
これは、たぶん今日、それも昼過ぎにアップされたのだから掴みやすいかもしれない。

動画サイトのハンドルネームはSNSとは別にしている可能性が高いが、アップしたことを拡散しているツイートはあるはず。
そこから繋いでいけば……



中心から放射線状に大きさを増すクモの巣のように、ネットはあっという間に巨大化し、複雑で細かく繋がりだす。それでもその中央にいる人物は1人で、必ずどこかで繋がっているはずだ。それを追い詰めるには地道だが、たどっていくしかない。


大丈夫。
絶対に繋がっている。
地味で根気のいる作業だけど、これは私の得意分野。やるっきゃない。


『カリス姫』とワードを載せているツイートを捜す。
その人がフォローしている人、フォロワーをしらみつぶしに調べる。
そのフォロワーのツイートをチェックする。
関係が疑われたら、そのフォロワーを調べる。
そして………


オムライスのケチャップの臭いが、部屋に漂っている。唇についたケチャップを拭ったティッシュは机に置かれたままで、食べ終わった皿でさえ台所に返されるのをじっと待っている。


ただひたすら同じ動作を、無我夢中で続けていた。気づくと、夜中の2時を優に超えている。


「キャーーー」

静まり返った我が家に私の悲鳴が響いた。熟睡していたお父さんが飛び起き、私の部屋に転がりこんできたほどの悲鳴。


「莉栖花!!
どうしたんだ?!」


「追い詰めたのに……
4時間ネットサーフィンして追い詰めたのに、一番最初の人にもどっちゃった……」


パソコンの前で頭をかきむしる年頃の娘。そんな私に声をかける事もできず、お父さんは部屋の前に立っているようだ。呆れるを通り越して、かわいそうになったのだろう。お父さんは何も言わず、パタンッと戸を閉める音だけ残し消えて行った。


「スタートからやり直しだ」


がっくりと肩を落としたが、それでもこれ以上の方法が思いつかない。私は、再び『カリス姫』のワードを探った。

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