カリス姫の夏
道はもう1つ残っている。
最も可能性が高く、でもそんな訳は無いと否定してきた道。そこを否定し続けていては答えはでない。認めなくては。
K様はネットではない、リアルの私と知り合った人物。しかも、ここ最近、たぶん夏休みに入る直前か、入ってから。
この4時間、調べ続けたネットの住人を思い返す。その共通点をふるいにかけ、残った情報が一つある。それは、医学部生、あるいは医師であるという事。
私の中で、K様の人物像が浮かび上がった。その人物が私の前でほほ笑む。魅惑の眼差しと謎の言葉を残して。
浮かび上がったその人をあらゆるSNSで捜したが、引っかかってこない。本名を使っていないのか、SNSから脱走したのか。いや、きっと本名を使っている。彼女なら。
ならば、掘りおこしてやろうじゃない!!
閉鎖したツイッターを復活させる方法は知っている。伊達(だて)にパソコンばっかりやっていない。
カチャカチャとパソコンのキーボードを打つ音が静かな部屋でリズムを取る。壁掛け時計の秒針の音でさえ、遠慮しているかのような静寂の中、私はパソコン操作を続けた。
東側の窓にかけられたカーテンに太陽光が当たり、薄く明かりを取り込む。小鳥達のさえずりが、爽やかな朝の訪れを知らせても、私の指は動き続けた。
「みつ……けた」
パソコンには私の静止画が、初めて見る物も併せて10枚近く映し出されている。
開いた窓から、風で揺れるレースのカーテンを縫うように私を捕らえた写真。
タマミさんの庭で薔薇と格闘している写真。
タマミさんの家近所を走り回る写真。
そんな写真を送られたツイッター。
そのハンドルネームは、私の推理を確証した。だとしても、目的が思い当たらない。
確かめなければ。直接、会って。
部屋の壁掛け時計を見ると、短い針は5を少しだけ過ぎている。今、連絡を入れたら、どれだけ罵倒されるかは分かっている。でも、事態は急を要する。
私はスマホを取り出し、電話をかけた。いつもなら切ってしまうほどの長いコール。そして彼女は出た。
電話口からはこの1月あまり何度も聞いた毒舌が、寝起きとはとても思えない切れ味で飛んで来た。
「ちょっと、子リス。
あんた今何時だと思ってんのよ。
平均以上の知識が無いことは知ってたけど、こんな一般常識も身についてなかったとは驚きだよ!」
今、華子さんの毒舌に受け答えしている猶予(ゆうよ)はない。
「華子さん、わたし達行かなきゃなんないよ」
「えっ?
なんだって?
子リス、あんた、寝ぼけてんのかい?
あんたの夢に付き合ってるほどあたしは暇じゃ……」
「華子さん!」
私のいつになく自分の意思を伝える強い口調に、華子さんは押し黙った。
「華子さん、わたし達行かなきゃなんない。
今すぐ、行かなきゃなんないよ。
北海道に」
最も可能性が高く、でもそんな訳は無いと否定してきた道。そこを否定し続けていては答えはでない。認めなくては。
K様はネットではない、リアルの私と知り合った人物。しかも、ここ最近、たぶん夏休みに入る直前か、入ってから。
この4時間、調べ続けたネットの住人を思い返す。その共通点をふるいにかけ、残った情報が一つある。それは、医学部生、あるいは医師であるという事。
私の中で、K様の人物像が浮かび上がった。その人物が私の前でほほ笑む。魅惑の眼差しと謎の言葉を残して。
浮かび上がったその人をあらゆるSNSで捜したが、引っかかってこない。本名を使っていないのか、SNSから脱走したのか。いや、きっと本名を使っている。彼女なら。
ならば、掘りおこしてやろうじゃない!!
閉鎖したツイッターを復活させる方法は知っている。伊達(だて)にパソコンばっかりやっていない。
カチャカチャとパソコンのキーボードを打つ音が静かな部屋でリズムを取る。壁掛け時計の秒針の音でさえ、遠慮しているかのような静寂の中、私はパソコン操作を続けた。
東側の窓にかけられたカーテンに太陽光が当たり、薄く明かりを取り込む。小鳥達のさえずりが、爽やかな朝の訪れを知らせても、私の指は動き続けた。
「みつ……けた」
パソコンには私の静止画が、初めて見る物も併せて10枚近く映し出されている。
開いた窓から、風で揺れるレースのカーテンを縫うように私を捕らえた写真。
タマミさんの庭で薔薇と格闘している写真。
タマミさんの家近所を走り回る写真。
そんな写真を送られたツイッター。
そのハンドルネームは、私の推理を確証した。だとしても、目的が思い当たらない。
確かめなければ。直接、会って。
部屋の壁掛け時計を見ると、短い針は5を少しだけ過ぎている。今、連絡を入れたら、どれだけ罵倒されるかは分かっている。でも、事態は急を要する。
私はスマホを取り出し、電話をかけた。いつもなら切ってしまうほどの長いコール。そして彼女は出た。
電話口からはこの1月あまり何度も聞いた毒舌が、寝起きとはとても思えない切れ味で飛んで来た。
「ちょっと、子リス。
あんた今何時だと思ってんのよ。
平均以上の知識が無いことは知ってたけど、こんな一般常識も身についてなかったとは驚きだよ!」
今、華子さんの毒舌に受け答えしている猶予(ゆうよ)はない。
「華子さん、わたし達行かなきゃなんないよ」
「えっ?
なんだって?
子リス、あんた、寝ぼけてんのかい?
あんたの夢に付き合ってるほどあたしは暇じゃ……」
「華子さん!」
私のいつになく自分の意思を伝える強い口調に、華子さんは押し黙った。
「華子さん、わたし達行かなきゃなんない。
今すぐ、行かなきゃなんないよ。
北海道に」