カリス姫の夏
「1年ちょっと前まではツイッターもしてたし、好きな芸能人フォローしたりもしてたの。
結構リプも送っちゃって。
まっ、返事なんて来ないし、本当に読んでくれいるかなんて正直どうでもよかったんだけど、繋がってるって思えるっていうか……
まっ、自己マンだよね。
別にそれで良かったのよ。
それがね、なんの間違いか、リプ返してもらっちゃって。ちょっと有名なバンドのボーカルなんだけど、ファンだったんだ。
びっくりよ、そりゃあもう。
青天の霹靂(へきれき)ってやつ。
私のフォロワーまで大騒ぎしちゃって。
おめリプのオンパレード。
でもさ、それが間違いの始まりだったの。
私が送ったレスっていうのが友達とトラぶってるっていう、まっ、愚痴でさ、で相手は『気にしないでがんばって』って、ささやかな励ましだったんだけど……
これって個人的なやりとりじゃないわけでなかったんだよね。
誰でも見れるようになってたんだから、どこの誰が見てるか分かんないんだよね。
そんな当たり前のこと、すっかり忘れて有頂天になって。
そしたら、どこでどう繋がったか分かんないんだけど、めぐりめぐってこの事がそのトラぶってる友達の耳に入っちゃったの。
私のツイッターってハンドルネームは変えてたんだけど、顔が見切れた写真は載せてたし、学校行事の事も書いてたから、友達には分かっちゃったんだよね。
うーん、トラぶってるっていっても本当は大したことじゃなかったのよ。
会話の一部が私の心に引っかかってたっていうか……
友達もさ、そんなに深く考えないで口にしただけだったのかもしれないし、私もその後、普通に付き合ってれば何事もなく友達でいれたんだけどね。
でも、私が友達の悪口を芸能人にチクったみたいに思われちゃって、友達との関係こじれちゃったのよ」
「そんなこと起こりうるの?」
と驚く私に、言い聞かせるようにみゅーは続けた。
「つまりね、こんなただの高校生のツイートが、有名人のツイッターを通したことでオフィシャルになったのよ。
そんなこと、いっくらでもありうる事なんだって、何年もネットしてて分かってたはずなんだけどね。
舞い上がっちゃったのかな。
バカだったな。
でね、私、ツイッター退会したの。
好きな芸能人のツイート見たいんなら、別にツイッターしてなくても見れるでしょ」
そう話すみゅーの笑顔が淋しそうで、私の心に深く刻み込まれた。
みゅーの身の上に起こったトラブルが、自分自身に起きている事件と重なるような……そして近いうちに、その事に気づかされるような、そんな予感まで湧いてはどこかへ消え去っていった。