カリス姫の夏
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またお見舞いに来ると約束し、私はみゅーに別れを告げた。

さあ、出発だ、と勇んで病棟を出ようとした私の目に、モチベーションをガタ落ちさせる中年女性の背中が目に入った。


病棟入り口には三人掛けのソファーが二脚。そのソファーに座る華子さんの背中は、驚くほど力無い。背筋は背骨を支える役目を放棄し、肩甲骨は必要以上に開いている。華子さんはいつにも増して丸まり、ダンゴムシのようだ。


強がってはいるが、ダメージを受けたのだろう。ネットに個人情報を漏らされたばかりではなく、仕事も失ったのだから。



華子さんの一回り小さくなった背中。そして、その隣はなぜだかその隣りには細長い背中の藍人くんが私を待っていた。

北海道に行くことを詳しい説明は全て省略して伝えると、藍人くんは「自分も行く」と言ってきかなかったからだ。


こんな時こそ毒舌女王の出番だと華子さんに説明し、着いてこないよう説得してもらおうと思ったのに、女王は一時の栄光は影をひそめ迫力も半減していた。「まっ、いんじゃないの」とあっさりと許してしまうものだから、私にはもう反対する手立てはなく結局、同行を許すことになってしまった。


遊びに行くんじゃないんだけどな……なんて分かってるだろうけど。


クーデターに合い処刑執行前の女王と、心意気だけは一人前の騎士。2人の元へ向かうが足取りはやっぱり重い。この先、思いやられる。


その時、私を男性の野太い声が呼びとめた。


「あっれー、莉栖花ちゃんだったよね。
望月さんのとこに来てたのかい?」


廊下を歩いていた総一郎師長が私を目ざとく発見したのだ。


「あっ、おはようございます。
すいません、まだ面会時間じゃないの分かってたんですけど、どうしても出発前に会っておきたくて」

と頭を下げると、寛大な師長は優しくほほ笑んだ。


「いや、いいよ、ちょっとならね。
うちはそのへん、ユルイから。
出発ってどっか行くのかい?」


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