カリス姫の夏
「どの口が、そんなこと言えたんだ!
そりゃ、将司は病気がちだったけど、でもお前に頼んだ前の日だって、大好きなイカの刺身も、もりもり食って元気だったんだぞ。

ああ、確かに俺の責任だよな。
大丈夫だって言うお前を信用した俺がバカだったんだ。
いくら親戚の葬式で九州帰らなきゃなんないからって、将司と離れるべきじゃなかったんだよ」

と、心底くやしいという表情を総一郎さんは見せた。


それでも、華子さんのひょうひょうとした表情は変わらない。


「うーん、大丈夫だと思ったんだよねー。
外連れてったらすんごい喜んでさ、河川敷嬉しそうに歩いて。
しばらく遊んだら、川の方じっと見て『入ってみたいなー』って……」


「言うもんか!!
十月の隅田川だぞ」

総一郎さんは噛みついた。


「でもさー、あたしがうなづいたら将司もうなづき返して……
で、そのまま……するするするって……」


黙って2人の会話を聞いていた私は、我慢しきれず口を挟んだ。


「入ったんですか?
川に?!
華子さん、止めなかったんですか?」


味方を得てますますエキサイトした総一郎さんの声は、すでに絶叫と化した。


「そう思うだろ!
普通止めるよな!
そんなの自殺行為だろうが‼」


「でも、流れそんなに早くなかったし……
浅瀬だったし……」


そういう問題じゃなくって……と突っ込みどころ満載だが、唖然としたまま言葉にはできない。良心の呵責(かしゃく)さえ感じさせない発言を、聞き続けた。


「まあさ、将司も10年以上生きたんだから幸せだったんじゃない?」


「何、平気な顔で言ってんだ!!」


総一郎さんは赤鬼のごとく怒りをみなぎらせ、溜まりきった感情を全てのパワーに変えて全身から放った。


「ミシシッピーアカミミ亀の平均寿命は15年なんだぞ!!」
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