カリス姫の夏
「余計な物までくっついて来て、申し訳ありませんね。
でも、あたしも無関係ではないもんで。
帰りのフェリーまで時間も無いんで、本題に入りたいんですけど」
しびれを切らした華子さんが訪問の目的を思い出させると、さやかさんは「そうですよね」と優雅にテーブルに近づいた。
その優美さと、さやかさんの座る食堂のパイプ椅子は驚くほどマッチしない。その違和感を拭えないまま、私達は揃って座り、さやかさんの話に耳を寄せた。
「分かってます、今日わざわざ来て頂いた理由は。
ええ、ちゃんと順を追って説明しますね」
さやかさんはカナリアみたいなかわいらしい声で、すらすらと台本を読むように説明し始めた。
「きっかけはね、ただ本当に莉栖花ちゃんと会話の続きをしたかっただけなの。
ほら、入院生活って退屈でしょ。
私なんて別に身体は元気だから尚更なのよ。
特に、ここはなんの刺激もないしね。
SNSの会話にも一通り飽きちゃって。
でね、ふと莉栖花ちゃんのツイッター見てみたいなって思ったの。
ほら、フェリーでツイッターで知り合った人と仲良くしてるみたいなこと言ってたでしょ」
「でも、わたし、ツイッターのハンドルネーム、本名にしてないし、見つけられないんじゃないですか?」
さやかさんはフフフッと口元から軽やかな笑い声をこぼし、話し続けた。
「でもね、私、時間だけはたっぷりあったでしょ。
だから捜したのよ、莉栖花ちゃんのこと。
ほら、織絵ルーナの制作会社……えーーっと、なんとかエージェンシー……
なんか芸能プロダクションみたいな名前よね。
あそこのツイッターフォローしてるって言ってたじゃない。
だから、そのツイッターのフォロワーを全部洗い流してね」
「えーー?!
でも、フォロワーって確か数万人いたんじゃ……」
「言ったでしょ、私時間だけはいやになるほどあったから……
そりゃ、大変だけど不可能ではない。
ここのフォロワーって男性や社会人が多いから、明らかにそうだと思える人は排除して……本名の人も排除して……
そうしてふるいにかけていったら、残ったのは……うーん百人以上はいたかなー。
そっからはもう、根こそぎってかんじで、1人ずつツイート読んで確認して……
もう、趣味みたいなもんよ。
楽しかったの、捜すのが。
そしたら、ほら、私を送って帰った日『あと30分位でやっと家につく。長い旅行だったよー』なんて書き込み見つけて。
これだって思ったの。
でね、過去のツイートやブログも読んで、確信しちゃった。
あーー、莉栖花ちゃんだって。
ほら、動画アップしてるって言ってたじゃない。
カリス姫の動画も見たのよ。
すごいわね」