カリス姫の夏
素直な女子高生の感想は、華子さんの言葉で常識外れの発言に変換された。


「子リス、あんた本当に知らないの?
あんたん家にはテレビっていう家電はないのかい?
それとも、あんたの家だけデジタル放送が受信できないようになってるのかい?」


「えっ?テレビ?
えっ、えぇぇー?!」


助け舟を出して欲しくて藍人くんを見たが、その船頭でさえ

「莉栖花さんって……あんまりテレビとか……見ないんですか」

と、気弱に言うだけで櫂(かい)をこぎ出そうとはしなかった。


自分の生活を思い返せば、確かに高校入学のころからテレビは食事中くらいしか見ていない。それも、父親の方針でニュースを見ることがほとんど。


「テレビは……あんまり……見ないけど……
えっ?
さやかさんってテレビに出てたんですか?」

藍人くんの前で恥をかきたくなくて、「あんまり」と形容詞を柔らかなものに置き換えたが、華子さんの罵倒は収まらなかった。


「日本中で知らない人の方が珍しいよ。
ここ数年、この国に居住していたのはそっくりの双子で、あんたは海外留学でもしてたんじゃないのかい。
もし、そうじゃなくても恥ずかしいからそうだってことにしておきな」


ネットニュースは毎回チェックしてたし、見たい映像も動画サイトを再生していたと言い訳が喉元まで出かかったが、ネット好きを認めることになるだけだと言葉を飲み込んだ。


相変わらず心の広い藍人くんが、小学生に交通ルールを教えるように穏やかに説明し始めた。


「桐生さやか……さんは、医療系のバラエティー番組にけっこう出てたんですよ。
でも、これだけの美人だし、すぐに人気出て、普通のバラエティーにも出てましたよね。
我が家で見てる朝の番組にも出てたし……。
医学部生中心のファンクラブがあるって噂も、聞いた事あります。
憧れの存在だったんじゃないですか?」
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