カリス姫の夏
だまって聞いていた華子さんがぼそっと口を挟んだ。
「あーあ、昔読んだSF小説みたいな話だね」
「SF小説ですか?」
尋ねた藍人くんに顔を向け、華子さんはいつも通りのガラガラ声で説明した。
「中学生のころ読んだ小説でさ、普通のサラリーマンがある日、急に報道陣に取材されるのさ。
別に特別な事もしていない、普通のプライベートを。
それが取材合戦になって、どんどんエスカレートしてって」
「へぇー」
私の相づちにかまわず、華子さんはしゃべり続けた。
「でね、そのサラリーマンが『なんで俺なんか取材するんですか?』って聞くのよ。
そしたら記者が答えるの。
『それは私達にも分かりません』って。
そんなSFみたいな事が現実に起きるんだから、嫌な時代だね」
華子さんの顔がゆがんだ。華子さんの言わんとする事も、少なからず分かる。こんなトラブル、SF小説の出来事だって、私も思う。
さやかさんは、傷ついた心の行き場を探るように続けた。
「私のフォロワー、医学部生が多いって言ったでしょ。
大学生同士のネットワークがあったみたいで、それを通じて莉栖花ちゃんの近くに行ける人もいたのね。
大学生も今、夏休みで暇だったのかな。
リアルの莉栖花ちゃん、見つけて写真や動画とる輩(やから)が現れちゃって。
中心になって指示してた人が、やっと特定できて、しっかり釘刺しといたからもう大丈夫。
こんな事、続けたら大学に告発するって脅かしたら、シッポ巻いてどっかに逃げちゃったわ。
だから、もう心配しないで」
さやかさんの説明を聞いたが、どうしても私には解(げ)せない。私は小さく何度も首を振り、納得のできない疑問をぶつけた。
「でも、でもやっぱりおかしいですよ。
テレビに出てたさやかさんはまだしも、わたしの……
こんなただの高校生が、日本全国のたくさんの人達に注目を浴びるなんて。
そんなことして、何が楽しいんですか。
こんな普通の高校生の個人情報、流して……」