カリス姫の夏

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私の涙が枯れ果てた時、さやかさんは何度目かの「ごめんなさい」に「退院したら会いましょうね」と約束を付け加えた。


「やっぱり、会話は直接会ってしなきゃね。
ネットは……当分休もうかな。
どこでも行ける、いつでも会える気軽さは、安易に人を傷つけるもろさもあって、今はちょっと怖いな」


そう言うさやかさんに、私もうなづいた。


「さやかさん、わたしね。
有名人がプライベートで写真撮られたり、それをツイッターなんかで流されるのなんとも思ってなかったんです。
そんなの有名人なんだから仕方ないじゃないって。

でも、わたしがこうして当事者になって分かったんだけど、これってすんごく怖いですよね。
誰かがどこかで見てるかも、写真や動画撮ってるかもしれないって、本当にすんごい恐怖ですよね」


「そうよね。
いつ誰が見てるか分かんないなんて、ぞっとするわよね。

私だってね、そりゃテレビ出たりしてたけど、全然一般人だと思ってたし、私の言うことがそんな影響力あるなんてちっとも思ってなかったのよ。

でも、なんていうのかな、現代ってそういう有名人と一般の人の距離が近くなってて……昔よりね。
だから、普通に生活してる人が、いつ何どきプライベートをさらされるのか、分かんないのよね。
何をきっかけに、不特定多数の人々に知られるようになるのかって。

それって、若い時にはちょっと憧れてたくらいなんだけど、現実、自分自身に起きてみたら怖いわよね」


肩をすくめ、女子高生のような表情を作ったさやかさんは「マジでね」と付け加えておどけた。


ほほ笑み会う2人は、世代も立場も超えて繋がり合えたような気がする。次に会った時はもっといろんな……恋話なんかを無邪気におしゃべりできる関係になれる。そんな予感が、真っ暗にふさぎこんだ心にかすかな光を射していた。
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