カリス姫の夏
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カリス
<そう言えばこの前の新規
 最近見ないね

>あいつ?
国外退去

>マジ?
 何やらかした?

>空豆のツイッター入って個人的に会おうとした

>うわ やらかすとおもた

>しかも断られたら
 個人情報探り出した
 見つからないとおもったんだろ
 アホだ

>マジ バカ
 ナイトが見逃すわけないのに
 甘すぎ

>ネットの中だけで楽しんどけばいいのに
 リアルに手出すとロクなことない
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「そうだよね」

と私は、華子さんにも聞こえないように小さくつぶやいた。


ネットはネット。
リアルはリアル。


繋がると良いことは何もないってナイトだって口をすっぱくして言ってたのに。リアルになんの幻想も抱いていない私には、そんなリスクを冒してまで会いたいと思う心理は理解できない。



『ナイトの国』を旅している間に、車は函館の街に到着していた。

フェリーの乗船まで時間があるからと、気のいい石井さんは遠まわりしてくれる。私は息で曇るほどガラスに顔をつけ、外の景色を食い入るように見た。


おもちゃ箱のようなかわいい坂の街を、路面電車が走る。異国情緒あふれる函館の石畳の坂道を登って、後ろを振り返れば函館湾を一望できた。見下ろす海の色は地元の海とも、修学旅行で行った沖縄の海とも異なる。深い緑色に浮かぶ白い波が、ウミヘビのように無数に現れては消えていった。


美しい街並みに心をうばわれ、車から降りて思わず写真を撮った。絵葉書になりそうな美しい景色。その写真を私のツイッターにアップしたのは言うまでもない。ただ、その端に仲むつましいカップルが映り込んだことだけが、心残りだったが。

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