カリス姫の夏
とりあえず……と、カリス姫の動画が完成したことを『ナイトの国』に報告。さすがに早朝で入国者は数人だったが、「拡散するね」と約束してくれたので、今日中にはみんなに広まるだろう。
動画サイトに載せるのはひと眠りしてからにしようと心に決め、歯磨きするために階段を降りた。
「あら、おはよう。
えらいわね、ちゃんと起きて。
さすがに、憶えていたのね」
歯磨きしている後ろからお母さんが声をかける。
鏡越しにお母さんの顔を見たが、言葉の意味が分からない。寝不足で頭が回らないせいだ。気にしない、気にしないと、うがいの水を口に含む。
「でも、先生方だって大変よね。夏休みのど真ん中に出校日なんてねー」
ん?
お母さん、今なんて言った?
小首を傾げながら、ぐじゅぐじゅと音をたててうがいする。
しっこうび?
しっ……こう…び?!
ぶぁっっーー。
私は思わず口に含んでいた水を鏡いっぱいに吹き出した。
そうだ。今日は高校の出校日だったんだ。
「おかあさーん、お願い。
わたし、今日、休ませてー」
甘えるように台所に立つお母さんに体をすり寄せたが、さすが私より何枚も上手でこんなもんじゃビクともしない。
「何、バカなこと言ってるの。
別に用事もないのに休めないでしょ。
出席日数に数えられるんだから」
「じゃあさ、海外留学してることにしてよ」
と、無駄だと知りながら猫なで声を出してみた。