映画みたいな恋をしよう
「いつわかった?」

「コウさん下手なんだもん」
優香は楽しそうに笑って重心を外に寄せる。
小学生の子が鉄棒の上に座り、足をブラブラしているようだ。

「お店の掃除をしたらさ、事務机の中からファイルが飛び出していて、婚姻届と保険契約書を見つけた」

ユラユラと優香の身体が揺れる。

「婚姻届でときめいて、保険契約書でへこんだ」

「ごめん」

「コウさんが居ない時、借金取りが来たよ。お店にローン会社からの電話もきた」

「ごめん」

「この人、絶対借金してる。しかも高利貸しに引っ掛かってる。だから私と結婚して保険金かけるつもりかなーって、ドラマみたいな話をふと思った」

「……ごめん」

「そこ否定してよ」
優香は呆れた顔をして、細い手を伸ばし俺の頬をつねる。

「でも全然結婚の『ケ』の字もでないし、こいつビビってるなって、私からプロポーズした」

「うん」

「あとは保険契約書を書き込ませるだけなのに、コウさんそれもしないから、私勝手に書いて提出しておいた。早く突き落としなさいよ」

昼下がりの冬の風が2人を包む。
ふんわりと彼女のスカートが彼女の動きに沿うように揺れ、からし色のソックスの位置が徐々に高くなる。

「窓を拭いてたら、間違って落ちて死んだことにしよう。猫の世話頼むね」

そう言い残し、簡単に鉄棒の後ろ回りをするように窓から飛び出そうとする優香の肩を抱き、力任せに部屋の中に倒してから窓を閉めて鍵をかける。

「へタレが……」
そう言いながら彼女は泣いた。

縁日で欲しい物を買ってもらえなかった子供のように、駄々をこねた子供のように
床に横たわり
ジタバタ身悶えしながら泣いていた。

俺はそれを
ただ見つめるだけだった。
< 11 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop