映画みたいな恋をしよう
「一緒に生きよう」

40年間生きてきて
無茶もした
そりゃぁ楽しい事もあったはずだけど、その記憶は遠い霧の中。

人生を哀しみ
人に嫉妬し
だらしない弟に泣かされ
借金に押しつぶされて、無気力にただ過ごす。
きっとこのまま
誰の目にも止めず
自然にこの世とさよならするんだろう。

つまらない
そんなモノクロの世界に、彼女は色を与えてくれた。

「こんな俺が言うのも変だけど、一緒に生きよう。優香の泣き顔なんて亡くなったお父さんは見たくないだろう」

次から次へと
溢れる気持ちと言葉が重なり止まらない。

「優香は一生懸命看病した。お父さんが一番わかってる。今はどんなに会いたくても、会いに行ったら怒られる」

そうだろう
俺は娘なんていないけど

大切な存在が
今、目の前で泣いて苦しんでたら
つらくてたまらない。

優香のおやっさんだって
そう思うだろう。

「人は必ず死ぬ。明日の事なんてわからない。家を出たとたんに隕石が頭の上に落ちて来るかもしれない」

運命なんてわからない。

「そんな叔父さんとは縁を切れ。俺と猫がいるから、もう苦しまなくていい。お父さんもすぐ傍で見てる」

彼女は黙りうつむいていた。

「寂しくても出てこない。会いたくても出てこない。でも優香の傍にいる。ずっと一緒にいる」

不思議な話だけれども
亡くなった人は寂しくても出てこない。

どんなに泣いても会いたくても
幽霊でもいいからって思っても出て来ないけど

なぜか
自分がピンチになった時
人生の岐路に立った時
精神的に困った時に現れる。

俺の母親がそうだったから

だから優香の父さんも
必ず傍にいて

愛する娘を見守っている。

「優香が笑うと、お父さんもきっと笑ってる」

彼女は崩れて
また泣いた。

泣くだけ泣いたら

きっと上手くいくだろう。

どんなにつらい事があっても

必ず朝は来るのだから。

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