映画みたいな恋をしよう
数だけある釣り竿を横目に
靴を脱ぎ、店と自宅を繋ぐ扉を開けると
「にゃおん」と小さな声が聞こえ、俺の足元に温かいものがすり寄る。
白・黒・茶色のコントラストも美しい。
猫という名の小さな三毛猫。
『猫って名前?』彼女に問うと『猫だもん』と簡単に答える。彼女にとって全てはシンプル。
猫を抱きあげ
柔らかい毛並みに頬を寄せ、飼い主の姿を探すと音楽と風圧が届く。
猫の飼い主は
テレビ画面を見ながら、腰をくねらせ踊っていた。
「あ、コウさんおかえり」
てへへと照れながら、優香は俺を見て顔を崩す。
猫の飼い主。
二週間前にやってきて
猫と一緒に住みついた女性。
「ノリノリ?」
「うん。ちまたで噂のカーヴィーダンスだよ」
どんな意味の噂?
なぜ今カーヴィーダンス?
「コウさんも一緒にやろー」
「いや……今度にする」
今度はないと思うけど。
「皆川のおじいちゃんの釣り竿どうだった?」
「リールの部分が引っ掛かってただけ」
「すぐ直ったんだ。よかったね」
優香は手早くDVDを消し
俺の前に立って、背を伸ばして軽くキス。
「猫もお腹空いたかな?今日のお昼は何にしようか。買い物行ってないからなー」
俺の腕に抱かれる猫にもキス。
「何か食べに行く?」
「動くの面倒だからいい」
カーヴィーダンスの方が面倒だと思うけど。
優香のキスが気に入らないのか
猫は俺の腕からひょいと飛び出し、お気に入りのクッションに身体を埋めて丸くなる。
その様子を2人で見て、顔を合わせて平和に微笑む。
「でも不思議だよねー。買い物行ってさぁ米や野菜の値段を考えて、どっちが安いかなーって悩むんだけど、煙草買う時はためらいもなく、ポンポーンってカゴに入れるんだよねー」
上目使いがそそられる。
果実のような赤い唇。
黒目がちの丸い目が愛らしい。
「2人とも喫煙者だからさ」
「うん」
「キスしても害はないよね」
優香の身体が俺の胸に入り
細い腕がツタのように背中にはう。
逃れられない
その甘い唇に
口内を自由に暴れる舌に。
生き物のように
互いの舌は絡まり息を荒くする。