【完】適者生存
【百合香視点】


暖かい布の感触で私は目を覚ます。


「・・・ん・・・」


どうやらどこかの布団で眠っていたようだ。


周りを見渡す。


縁側からは暖かい風が吹き、とても心地が良い。


私は布団から抜け出し、部屋を抜ける。


部屋を抜けたところにある廊下を見渡すものの、誰もいない。


私は少し落胆し、部屋へ戻った。


改めて枕もとを見ると紙が置いてある。


私はその紙を手に取り、読んだ。


「お風呂使ってください・・・・?」


ご丁寧に簡易地図も書かれている。


どうせ使ってと言っているので私は好意に甘え、お風呂を使わせてもらうことにした。


地図の通りに進み、脱衣所へ入る。


少し広い脱衣所。


脱衣所の壁に備えられた棚には服を入れるかごが2つ並んでいる。


1つ目のかごには何も入っておらず、2つ目のかごにはもと着ていた制服が丁寧に折りたたまれて入っていた。


よく見るとしわが伸びている。


まさか・・・アイロンかけた?


・・・ありがたい。


私は制服の代わりに着ていた浴衣を脱ぎ、かごへ入れる。


棚の端に置いてあったタオルをとってお風呂場に行った。


お風呂場は銭湯くらい広く、伸び伸びと入浴を楽しめる。


私は体に湯を掛け、一番大きい風呂へ入った。


この風呂のほかにも2つ、小さいお風呂がある。


温かいお湯でしっかり温まり、風呂場を後にした。


タオルで体をふき、制服を着る。


浴衣をたたみ、布団が置いてある部屋へ向かう。


古い木で出来たここは、何か懐かしさを思い出す。


弟の悠里のことも思い出す。


須崎家は代々、陰陽術を扱う家系。


私は糸結界を専門に、悠里は怪異対処を専門にしていた。


悠里と最後にあったのは3年前。


須崎家は師範が付き添いの元、12歳から15歳まで、3年間修行の旅に出る。


悠里と私は1歳違い。


なので来年帰ってくる予定。


私もつい数か月前に帰った。


悠里の訃報を聞いたのは帰ってすぐ。


なぜ・・・?


師範が付き添っているから旅から抜け出すのはほぼ不可能。


探知用結界を修行者にかけられているから猶更(なおさら)。


なのになぜ?


・・・考えれば考えるほど分からなくなる。


部屋のふすまを開け、部屋に入る。


相変わらず縁側からは暖かな風がふき、心地よい。


私は布団を三つ折りにし、部屋の押し入れに入れ込む。


浴衣もたたんで部屋にあるかごの中に入れる。


すると、コンコンとノックされた。
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