【完】適者生存

須崎の姉

「うん、今日も湯豆腐にしようか。」


「そうですね。

少し肌寒くなってきたし。

お豆腐、買ってきますね?」


「うん、ありがとう。」


雅さんと私は大の鍋好き。


2日に1回、季節を問わずして鍋。


今日は湯豆腐にするみたい。


私は巫女服の上に薄い上着を羽織り、移動販売車へ向かった。


「こんばんわ~。」


「お、紗夏ちゃん。


今日は何鍋にするんだい?」


移動販売の店主さんは私たちが鍋好きだということをすでに知っている。


「湯豆腐鍋です。


お豆腐2丁、頂けますか?」


「良し。


ちょっと待ってろよ。」


店主は車の奥から豆腐の入ったケースを出し、2丁をボウルの中に入れてくれた。


私は代金を払い、神社へ戻ることにした。


「うう・・・


寒いな・・・。」


神社まであと一息、という時に空気が張り詰めた。


・・・桜ちゃんの時にも体験したこの空気。


私はもしや、と思い、空いている左手を空間に出した。


コツン、という音をだし、左手を阻んだ。


「・・・壁。」


ただ、お豆腐を買いに来ただけなのに。


「・・・夏目紗夏さん?」


私の名前を呼ばれ、振り返る。


するとそこには制服にベンチコートを羽織った少女がいた。


「・・・あなたが、この壁を作ったの?」


私は少女にそう尋ねる。


「・・・うふ、質問にはあとで答えるわね。


あなたにある人からの言伝。


明日、正午までに呪人形(しゅにんぎょう)をもとあった場所へ戻して。


できなければ、あなたの何かが壊れるわ。」


少女はそう言って、神封神社を指差した。


「それと、あなたの質問に答えるわ。


そうよ、その”結界”は私が作ったもの。」


「こんなことをさせたのは、誰?」


「言えないわね。


でも、ただ一つ言えることがあるわ。


私の名前。


・・・須崎百合香。」


「すざき・・・?


・・・っ!」


「そ、須崎悠里の姉よ。」


「・・・・・・」


「言伝、守って頂戴ね?」


少女、須崎百合香はそれだけ言って踵を返した。


「あ・・・、忘れていたわ。」


そういって再びこちらへ来る。


そして、見えない壁に指を立て、「壊」と一言。


すると、見えない壁がガラスのように飛び散った。


飛び散った壁は、私の皮膚をかすめ、かすり傷を作った。


「ふふ、ごめんなさいね。」


少女は今度こそ、踵を返し、帰路へと付いた。
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