【完】適者生存
刹那、雅さんは装束の袂から短刀を取出し、木へ投げた。


プツンッ


鈍い音が響く。


「あーら、残念。」


そういって、須崎百合香が木の裏から出てきた。


「へぇ、可愛い糸結界使いだ。」


「呪人形、渡してちょうだい?


出来なければ・・・ね?」


含むように言う。


「・・・僕らを糸で囲んでどうするつもりだい?」


「うふ、ばれてた?


勘のいいお兄さんね。


この結界は保険よ。


・・・呪人形を紗夏さんは必ず渡す。


言ったわよね?


あなたの何かが壊れる、と。」


私は無意識のうちに落としたスコップに手を伸ばした。


「そうよ、それでいいの。」


夜空になびく、冷たい風が百合香の長いロングヘアーを揺らした。


「紗夏ちゃん、彼女の言葉に耳を傾けないで。」



「・・・やっぱ、辞めちゃう?」


「君の名前は?」



「私の?


須崎百合香。


満足かしら?」



「それじゃ、百合香ちゃん。


あの人形について少し説明してあげるよ。」



「説明・・・?


必要ないわよ。」



「いや、聞いたほうがいい。」


雅さんは真剣なまなざしで百合香を見る。


雰囲気に圧倒された様子の百合香は小さくうなずいた。


「・・・呪人形はね、別名”首括り人形”。


人形の顔を見ると怪異にかかる。


百合香ちゃんは感化を知っているかい?」


「ええ、知ってるわ。」


「そうか。


だったら説明は早い。


まず、なぜあの母娘が怪異にかかったのか。


説明しようか。」


私は神妙な顔でうなずく。


「実をいうとね、あの人形に怪異を起こさせる力はない。


・・・ほら、紗夏ちゃんが朝見ていた木にテルテル坊主が括ってあったでしょ?


あれが、怪異の発生源と思ってくれればいいかな。


テルテル坊主を飾ると、12時間限定でかつ、極弱い首括りの暗示がかかる。


母娘は多分暗示にかかってしまった。


あの人形自体に怪異を起こさせる力は備わってない。


あの人形は対象者、今回でいう母娘たちに寂しがっている、そういう風に見えたんだろう。


だから、自分たちも首を括って一緒にいよう、


そういう感情が働いたんだよ。」



「・・・それで、何が言いたいわけ?」



「君に試したいことがある。


紗夏ちゃん、スコップを貸して?」



「・・・はい。」


私は雅さんにスコップを手渡した。


雅さんは受け取ったスコップで人形が埋めてある辺りに穴を掘った。


少しだけ、空気が張り詰める。


雅さんは穴の中に手を入れ、何かを取り出そうとしている。


すると、いきなり手をだし、手に持っていたものを百合香に向けた。


「・・・ぁ・・・っ!


うあああああっ!」


百合香は自身が持っていた糸結界用の糸を首に巻きつけ始めた。


「・・・紗夏ちゃん!


まずはこの結界を抜けないと・・・っ!


僕が隙を作るから抜け出して彼女を止めて!」



「わかりました!」


雅さんは結界の糸部分に手を添え、何やら呪文を唱え始めた。


「・・・振・・・


揺・・・


壊・・・・!


今だっ!」


私は雅さんの掛け声のもと、雅さんが作ってくれた結界の穴に飛び込んだ。


ゴロンと地面に転がる。


「紗夏・・・ちゃん!


彼女を・・・止めろ・・・っ!」


私はすかさず百合香を地面に倒し、糸をつかんでる手を必死に離そうとしたけど、力が強くてできない。


いきなり、糸を持つ手の力がフッと弱まった。
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