友情
友情
「こんばんは」

「おう、いらっしゃいってなんでお前」

「え、だって鍋するって言ってたじゃん、だから来ちゃった」

「いやいや、来ちゃったてなあ、お前が来ると俺があいつに怒られるんだけど? ただでさえ喧嘩中なんだろうが」

「喧嘩中だからこそ来たくなるの」

「もうお前は本当にめんどくさい奴だな」

 そう言って心底面倒くさそうな顔をしながらも、彼は私を部屋に上げてくれる。

大学三年生、私のほんの少しの過ち。

「ねえ、皆はいつ来るの?」

 1Kのマンション。まだそんなに暖かくなっていない炬燵に入った私は、キッチンといえるほどの広さのないそこで鍋の下準備をする彼に尋ねた。

「八時」

「え、七時開始予定じゃなかったの」

「まあ、最初はその予定だったんだけどねえ」

 俺らが時間通りに集まらないのはいつものことだから、といって彼はどんどん具材を切っていく。手伝おうか、と声をかけたが、お前にやらせんの怖いしいい。と一蹴されてしまった私は自分のすぐ隣にあった本棚に目を向けた。

教科書や雑誌や、新書、小説と案外たくさんの本が並んでいる。

その中でも、いかにも古本市で買いました、という武者小路実篤の全集のようなものが目にとまった。

「なんか、意外」

 新しく彼のことを一つ知って私は少しうれしくなった。ああ、これはやっぱり……。
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