Melty Lesson
なぜか、逸らせない瞳。
彼も瞳を逸らせてくれない。
見詰め合ったままの数秒間。まるで時間が止まった気がした。
静止した時間が動いたのは、それから何秒後だったのだろう。
ふいっと先に視線を逸らしたのは彼から。
瞳があっただけだと思っていたのに―…
「え……」
音楽教室から出てきた彼は、一歩一歩ゆっくりと近付いて、私の目の前で足を止めた。
「レッスンを希望ですか?」
彼からの第一声はそれ。
「え……っと……」
と、返しに困っていると、ハッと目に付いたのはウィンドーに貼られた“ピアノ個人レッスン受講生募集”の張り紙。