舞う風のように
肉を斬った音。
飛び散る血の音。
温かい感触。
可笑しいな…
いつまでたっても痛みがこない。
不思議に思うと由紀はゆっくりと瞳を開いた。
その直後見えた光景に息を飲む。
「に、兄さん!!」
私と向かい合うようにして立っている兄さん。
その顔は真っ青で、体は震えていた。
一瞬で理解した。
「なんで…悪いのは私なのに。」
戦場では、一瞬たりとも油断してはならない。
父の教えを破ったのは私なのに!
「兄の…やく、め…だ。」
普段から笑顔を絶やさない兄。
苦しいはずの兄は、こんな時でも笑顔を見せる。
そんな様子を後ろから眺めていた浪士。
大きく舌打ちをすると、背を向けた。
「興醒めだ。
俺は坂田浩一郎。覚えておくが良い。」
血濡れの刀を鋭く払うと、鞘に仕舞った。