舞う風のように
浪士が出て行った途端、兄がこちらに向かって倒れてきた。
慌てて受け止めると、その体は血でぐっしょりと濡れている。
「に、兄さん!」
最早悲鳴に近い声を上げると、救急道具を取りに母屋へ駆け出そうとした。
部屋から飛び出そうとした時、何かが私の袴を掴んだ。
転びそうになるのを堪え、振り向いた。
「…兄さん!早く手当てをしなければ、どうなってしまうのか分かっているのですか!?」
もう頭が真っ白だった。
父を失った今、私の家族は兄1人。
兄まで失ったら私は1人になってしまう。
そんなことは絶対に嫌だった。
「兄さん!!」
しかし、兄さんは私を離してくれない。
その綺麗な真っ直ぐな目で私を見つめると、静かに首を振った。
もう無駄だ。
そう言うように…
私の体から、力が抜けた。
「そうそ、う…‥良い子だ‥。い、まは‥近くに居て…く、れ‥‥。」
兄はいつものように、いつもの優しい笑顔で、しかし震える手で私の頭を掻き回した。
「兄さん…。」