お兄ちゃんができました。
なんて、聞かれても無い死ぬ時の理想をカミングアウトしてみたけれど当然志月くんは離してくれない。

彼の手から逃れようと私がじたばたとあがいている間にも、ホー汰は速度を落とすことなく飛んできて、私は覚悟を決めてギュッと瞼を閉じた。

もう、どうでもいいや。痣が出来たら階段から落ちましたとでも言っておこう。

きっと、自称親友には大笑いされて親友には冷たくバカにされるんだろうけど、仕方ない。

親友はともかく、自称親友にはやつあたりも兼ねて一発殴りゃあいいだけだ。

さぁ。ホー汰。おいで!

もうこっちは覚悟出来ているのよ!!

心の中で手を大きく広げて、ホー汰が私にタックルをかますときを待つ。

……が。




「……ん?」




アレ。おかしいぞ。

いつまでたっても痛みが来ない。

代わりに何か肩が重いんだけど。アレ?





「…………、」



あ、もしかして私気絶した?

もしくはマジで死んだ?

ホー汰に頭でも一突きされて大量出血とかそう言うので。

いや、でも。それだったらこの肩の重みは何?

ついでに、何か耳元でバサバサいってるんだけど私の耳終わったか。





「……は? バサバサ?」




黒く塗りつぶされていた視界に光がさす。

瞳を開けた私の視界に入ったのは、柔らかな笑みを浮かべた志月くん。

彼の視線の先を追った私は、息をつめた。

いや、だって。

ホー汰が私の肩の上にとまってんだもん!

毛づくろいとかしちゃってんだもん!

今まで私の頭にしか乗らなかったホー汰が……っ!




「お母さーん!! ホー汰が風邪ひいた! もしくは、昨日ドアに頭強打して頭イカれた! すぐ病院に――」

「ハル」




頬を両手で挟み、ムンクの叫びよろしくこの世の終わりのような表情をしていた私の名前を、志月くんが静かに呼ぶ。

視線だけを志月くんにやると、彼は何故かくしゃりと私の頭を撫でた。




「し、志月く……」

「ホー汰はね。君のこと嫌いじゃないんだよ」

「え……?」

「むしろ、大好きなんだよ。大好きすぎて……いじめちゃうんだ」




何その。好きな女子をいじめちゃう小学生男子みたいな奴。




「でも、良かった。ホー汰、俺の言葉が分かってくれたみたいだね」

「……」







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