お兄ちゃんができました。
「――……ねぇ、志月くん」

「何?」

「す、少し私から離れたほうが良いんじゃないでしょうか」

「何で?」

「やー。だって」



人がね。人が見てんだよ。さっきから!

何あのイケメンと貞子ってな。人々の好機と恐怖のまなざしが痛いよ。私。

……そんなことなら私が前髪を何とかすれば良い話しなんだけど、生憎私はそうする気は全くない。

だって、私。人の視線って怖いんだもん。

今まで通っていた学校から、わざわざうちの学校に転入してきた志月くん。

聞けば、以前の学校は私でも知っている超有名な進学校で、しかも彼はいつも成績はトップだったらしい。

そんな天才並みの志月くんは、今日から家に住むのに合わせて、何の取り柄も無いごくごく平凡な公立高校にわざわざ編入手続きを出したらしい。

もちろん、偏差値も平凡なうちの学校に志月くんは余裕で合格。

かなりもったいないことに、今日からうちに転校することになったらしい。

前の学校に通うには相当苦労しただろうに……ホント……。





「もったいない!!」

「え!?」



しまった。心の声が漏れた。

気づけば、くわりと叫んでいた私に、行きかう人々はびくりと身体を揺らし、志月くんは驚いたように私を見下ろす。

それに、私は曖昧な笑みを浮かべると「ごめんね。何でもないよ」と伝えて、気づかれないようにひっそりと息をつく。

いやー。それにしても今日はとっても息苦しい。

私、もう帰りたいよ。疲れたよ。もう、授業中寝よう。そうしよう。

バカみたいなことを考えていた私の腕を不意に誰かが引っ張った。

イヤ、誰かなんて一人しかいないんだけど……。




「えぇ!? 志月くん。どうしたの!?」

「ハル。考え事は良いけれど、前を見て歩こう。もうちょっとで電柱にぶつかるところだったよ?」

「そ、そんなバカな……」




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