お兄ちゃんができました。
そんなギャグ漫画みたいなことが現実にあるわけ……。

信じられない思いで前を見ると、額がぶつかるかぶつからないかの距離に電柱があり、私は思わずのけ反った。

いつの間にか隣に来ていた志月くんが「ね?」と言わんばかりに可愛らしく小首をかしげ、私の顔は火がついたように熱くなる。

な、な、なんてこと――っ!!

なんか最近私、志月くんにアホなところしか見せてない気がする。

何これ。何の罰ですか。神様。今まで目立たず地味に生活してきた私が何したって言うんですか!!

思わず目の前に電柱に片手をつき、はぁと深いため息をつく私。

そんな私に、何を思ったのか志月くんは目線を合わせると不意に顔をぐっと近づけて来た。

いきなりのことに目を瞠り息を詰める私の耳に、志月くんが貞子にくわれると思ったのか通りすがりの女子の悲鳴が突き刺さる。




「し、志月くん……?」

「ハル。大丈夫? 顔は赤いし、朝からぼんやりしてるし。熱はないみたいだけど……」

「え、あ、ああ!! 大丈夫だよ。志月くん。私元気。凄い元気だから!!」



問題があるとするなら、それはあなたの行動です。

額と額がくっつきそうな距離にある志月くんの瞳。

嗚呼。もう。心臓がうるさすぎて眩暈がしそうだ。

距離の近さに焦る私とは対照的に、志月くんはいつも通りの涼しい顔。

それが何だか悔しくて、本当に噛みついてやろうかと思った。

……きっと、志月くんにしてみたら、こんなこと日常茶飯事なんだろうなぁ。

チクリ、と胸が痛む。その痛みに小首をかしげながら、私はさり気なく志月くんから距離をとる。

そろそろ本当に限界だった。心臓吐きそう。

おえっ。と、えずきそうになるのを気合いでこらえ、私は無理やり笑顔を浮かべる。

きっと今の私の笑顔は貞子並みにホラーなことだろう。悲しい。



「ほ、ほら。志月くん。学校に遅刻しちゃうよ。早く行こ!!」



無理やりなテンションで彼の腕を掴むと、体力も無いのに私は走りだす。

赤くなった顔を見られないために。

バクバクとうるさい心臓が、走ったせいだと誤魔化すために。

無駄に長い前髪が後ろになびき、遮るもののなくなった視界は何だかとても新鮮に思えた。
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