お兄ちゃんができました。
お母さんの言葉が理解できなくて、私は小首をかしげる。

そんな私を見て、お母さんは焦れたように紳士の腕に強引に自分の腕を絡ませた。




「だからー、この人は今日からあなたのお父さんに、そこの男の子はあなたのお兄ちゃんになるの!!」

「や、言っている意味が分からな――」

「私、この人ともうすぐ結婚するの」

「……」




予想外の衝撃的言葉に、私は絶句した。

え。何? なんだって? ケッコン?

ケッコンってアレだよね? あの――……あれ?

ケッコンって何だっけ?

ケッコン? けっこん……血痕……?

混乱し、完全に機能しなくなった私の頭がやっとのことで変換した言葉に私は目を見開いた。

なんてこと……っ!

二人はもうすぐ何をするって?

血痕? 血痕って何? 何をするの!?

物騒極まりない言葉に、私はお母さんの元までとんでいき肩をがしっと掴む。

鬼気迫る顔をした私を見て驚いたお母さんは目を見開き、隣の紳士や一瞬視界に入ってきた美少年は恐怖で顔を強張らせていた。

普段なら地味に傷つくところだが、今は気にする暇も無い。

だって、自分の母が暴力沙汰をおこすのを見逃してなんていられない――!



「お母さん。血痕って何? 血痕って。アンタ何するつもりなの? 殺人? 暴力? なんにせよ、血痕が出来るような危ないことしちゃダメ――!!」

「…………。誠さん。ちょっと救急車呼んでくれない? この子とうとう頭がイッちゃったみたいなの」



必死に説得する私とは対照的に、お母さんは冷ややかな視線を私に向ける。

突然話しをふられた紳士――元い誠さんは、驚いたように何度か瞬きをした後、早くも現状を把握したらしい。

苦笑を浮かべると、私とお母さんの肩に手を置いてやんわりと私たちを引きはがした。



「救急車は後で必要だと思ったら呼ぶから、二人ともとりあえず落ちつこうか。ね?」

「何言ってるの? 誠さん。私は十分落ち着いてるわ。騒いでるのはこのバカだけよ」

「バ、バカぁ!? バカはアンタでしょ? 血痕? 新しいお父さん? お兄ちゃん? アンタホント一体どんな犯罪を――」

「……“血痕”じゃなくて、“結婚”だよ。バカ」



不意に、涼やかな声が私の言葉を遮った。

驚いて背後を振り返ると、そこには先ほどと何ら変わりない――強いて言うなら少し呆れたような表情を浮かべる美少年が、ご丁寧にケータイに文字まで変換して“結婚”の方をトントンと指で叩きながら私に向かって歩いて来ていた。










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