お兄ちゃんができました。
穏やかな笑みを向けられて、私はぎこちなく頷く。

いやー、だって。さっきの言葉軽く愛の告白みたいに思えたんだもん。

私の方向いて、更には私の頭を撫でながら言うもんじゃないよ。うん。

先ほどまでどす黒いオーラを放っていたお母さんは今やすっかり大人しくなり、珍しく俯いていた。

ゆるくまかれた髪の隙間から覗く顔は少し赤く、私は思わず笑みを零す。

ああ。やっぱり、お母さんは私のお母さんである以前に“女のひと”なんだなぁ。

改めてそう実感しながら感慨深げに相槌を打っていると、不意に真横から伸びて来た腕が私の腕を掴み強引に引っ張った。

突然のことに足がもつれ前のめりに身体が倒れる。

腕を引っ張られている状況で、手をつくことなんてできはしない。

例え片手をついたところで体重なんて支えられないし、顔面ダイブは避けきれない。

どんどん近づいてくる床に、私は覚悟を決めてギュッと目を閉じた時、予想していた固い感触とは違う、暖かい何かに顔面から突っ込んだ。



「……っぶねー」

「えっ」



頭上から声が聞こえ、驚いて顔をあげると――何と言うことだろう。

美少年――元い、志月くんが私の身体を抱きとめていた。

かなり近い距離に、私の心臓は異常なほど早く鼓動を刻む。

それに気付いているのかいないのか。

志月くんはしっかりと私の肩を抱いたまま、安堵したように私を見下ろす。




「大丈夫か? どこか怪我は?」

「え? や、別に……。その、ありがとう」

「いや、元はと言えば俺が引っ張ったのが悪いんだし。ごめんね?」

「や、全然! 大丈夫です」

「そう?」




ニコリと微笑まれ、私はこくりと頷く。





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