恋 時々 涙


「…おばさん」



まだ受付の前の椅子に俯いたまま座っていたおばさんに声をかけると、

ゆっくりと顔をあげた


「…拓海くん…。もう夜遅いわ……帰りなさい…」


泣きじゃくって腫れぼったくなっている顔で無理に笑顔を見せるおばさんを見ると、激しく胸が締め付けられて、苦しかった。


そんな笑顔を見せないで…








「…おばさん…ごめんなさい…」


深くおばさんに頭を下げた。そして下げたまま続けた。






「優が…。優が事故に遭ったのは俺のせいなんだっ…」



おばさんの顔を見るのが怖くて顔が上げられなかった。


きっと恨まれる。もう前みたいに我が子のようには接してくれないと思う。だけど…



嘘をつくのだけは、絶対に嫌だったから。


正直に素直に全てを、話す。


そう決めたから。




「優と…。打ち上げが終わって帰りのバスの中で、俺のわがままな理由でケンカして…。それで優を泣かせた。だから優はバスを途中で降りて……事故に…っ。本当にごめんなさい。これまでおばさんはこんな俺を可愛がってくれていたのに、俺は…優を傷つけて…っ、本当にごめんっ」



頭を下げたまま動かなかった。



そのまま少しの沈黙が続き、おばさんが口を開いた。






「……拓海くんのせいなんかじゃないわ…。」


震えた声でおばさんが言った。その言葉に驚いて、ゆっくりと顔を上げると、



おばさんは優しく微笑んでいて、優しく頭を撫でてくれた。






「…優が事故に遭ったのは拓海くんのせいなんかじゃない。ケンカなんて、昔からのことじゃない!……拓海くんが責任を感じたりしないで……?」



また目に涙を浮かべて、おばさんが微笑む。






「…私は拓海くんが、そんなことを素直に話してくれたことが嬉しい。それに…。


"拓海"も私の大切な息子だもの。
恨んだりなんてしないわ」



「…おばさん…」


また目頭がカッと熱くなって、涙が込み上げてきた。



だけどまた、グッと我慢した。










「……拓海くんのせいじゃない…。きっと優なら大丈夫よ。

丈夫な子だから…。信じていましょう」


「…っうんっ」


大きくうなずいた。







おばさん。おばさんを見ると優がどうしてあんなにも素直なのかがよくわかるよ。



どうしてそんなにも心優しいんだろう。


どうしてそんなにも




強いんだろう…。










ありがとう。おばさん。









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