笑顔の前線
大学に通いながらやっていたレンタルショップでのアルバイト。
一年生の時からやり始めて、もうすぐ三年目になろうという時。
ヒロミは現れた。
需要が次第にDVDへと変化したせいで、店の裏には人の手が触れる機会さえ減ってしまったビデオテープが山積みになっていた。
これを中古として販売できるように、タイトルごとにテーピングする。
この日は大学の休講が重なって、私も昼からバイトに入っていた。
いっぱいに押し込めたネット什器から、手に持てるだけのビデオテープを何度も繰り替えし取り出していく。
そしてふと目にとまった
ひとつのタイトル。
「あ、これ……。
私このシリーズ買おうかな」
「へぇ~。遥香ちゃん女の子なのに、そんなの興味あるなんて珍しいね。
わかった。今度こっそり持って帰ればいいよ。とりあえず来週一度在庫チェックあるからその後で」
「いいんですか店長。
ありがとうございます」
手の中の六本のビデオテープ。
見下ろしながら、思い出に浸る。
「…いいけどさ、こんな時くらい笑顔見せたら?」
溜め息まじりの言葉の後で、段ボールを二つ抱えて店長が立ち上がった。
私は見上げる太陽の眩しさのせいにするように、まぶたを歪ませ頭を下げた。