透明メロディ

歌が好き。
私はそれでできてる。



ーパシャッ

「!?!」

それは、刹那。

自分の歌声にまじって聞こえたのは微かなシャッターオン。
振り返った瞬間、大きな風が吹いた。

ーザアッ

葉っぱが舞い踊り、一瞬だけあたりを緑に染めた。

その葉っぱに囲まれている…カメラを構えた誰か。


「お前…その歌、何?」

緑の向こうでじっとこちらを見つめる人物は、なぜか酷く鬱陶しそうな声で、私に向かってそう投げかけた。

まだ、カメラを構えたままだ。
顔は見えない。

「な、何って…」

一体何を問われているのか分からない私は、なんだか萎縮してしまう。

「なんだ…特別声がいいわけじゃないのか…」

何か失礼なことを言ったそいつはゆっくりと、ファインダーを覗いたままだったカメラを降ろした。

「青…だ」

真っ青。すごく綺麗な。

やっと見えた彼の瞳はとてもすんだコバルトブルー。海のようなその目から私は目が反らせなくて、じっと食い入るように彼の瞳をみつめた。

「悪かったな、よそ者で」

私の好奇とも取れる視線が、気に障ったのか、くるりと身を翻した彼はスタスタとその場を去ろうとする。

「えっ!ちょっと待って…!」

なぜ引き止めようとしたのか。
綺麗だという意味と弁解したかったのか。
もっとコバルトブルーの瞳を見ていたかったのか。

その時私には自分のことなのにそれが分からなかったんだ。

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