透明メロディ


私の制止に立ち止まった彼は、ゆっくりと振り返った。

咄嗟に引き止めたのはいいものの、不満気な青の瞳に見つめられれば何故か猛烈に鼓動がはやくなった。


「…い、今さっき、シャッター……そう、シャッター!撮ったよね?パシャって!と、盗撮だよ。どっかいくなら消してからにしてよね…!」

何故か喧嘩腰にしか投げかけられず、思わず口調が強くなる。


「……撮ってない。」

「はぁ?」


私の訴えに少し瞳が揺らいだようにみえて、強気になったのも束の間。
彼は見え見えの嘘を吐いた。

「そ、そんなわけない!」


確かに聞いた。必ず聞いた。大きな風が吹く前。私の声に紛れて、小さくでもしっかり耳に残る無機質な音。あの時絶対にシャッター音は聞こえた。
自慢ではないが、耳は良い方だ。

彼が嘘をつく理由が分からなかった。


「俺が撮ってないっていったら撮ってない。盗撮だ…?自意識過剰もいいとこだな。」


「じゃあメモリー見せてよ!それデジタルでしょ?すぐ見れるの知ってるんだからね…!」


何故見知らぬ初対面の奴に自意識過剰呼ばわりされなきゃいけないんだ。
絶対絶対撮ったのに。
私を嘲笑するかのごとく言い放った彼に、私は強行手段にでた。



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