透明メロディ
彼の方にズンズンと進む。
驚いたように、鋭い目を丸くさせて後ずさる彼。
「ほら、やっぱり。やましいからみせられないんじゃない!」
私は何をこんなに躍起になって彼を引き止めているのか。
もし仮に、彼が私の写真を撮っていたからと言ってそこまで神経質になることだろうか。特に勿体振ることでもない。
自分で自分の行動が良くわからなくて。
でも、何故か止まらない。
「カメラ…かして!」
そう言って彼の胸元にぶら下がった物を掴もうとした時…
「…触るな…!」
どこか儚気で、線の薄い彼からは想像できないような声…いや気迫。
声を荒げるというよりは、凄まれた。
少し色素の薄い、光を良く通すブラウンがかった髪の毛を少し乱れさせ、その隙間から見えた瞳で私を睨みつけた。
…そんなに、大切なもの?
彼は今きっと、データうんぬんよりも私がカメラに触れること自体に嫌悪感を抱いている。
カメラを大事そうに庇う彼は、酷く怯えているように見えた。