ぼくのモナリザ
大学1年生 夏

さくら あほくさい

今年の桜はとうに散った。
暖冬のせいで、開花が早かったのだ。

桜は短命という。
冬の厳しい寒さに耐え、暖かい日差しを浴び、
じらすようにゆっくりと蕾を膨らませて、春のどこか、花を開く。
やわらかな風が吹けば艶やかに散り、荒々しい風が吹けば時には幹から折れる桜。
この花には弱さしかない。
耐え忍ぶ力が、たんぽぽの半分しかない。






・・・なんて、僕、なに詩人っぽいこと言ってんねん。

今年で大学生になった僕、會村渉(あいむらわたる)は、テレビを見ながらそんなことを考えていた。

「今年の花見、よかったよなぁ。先輩たちって結構ね、ちょっと、アレやね」

同学科、同サークルの友人兼ここの家主の八木健介は、携帯の中の写真を見ながらそう大声で言う。
僕は飲みかけのカルピスに視線を移して答えた。

「アレって?」

「アレっていうか、ほら、なんていうのよ、はっちゃけるっていうか、あほくさいな」

健介に言われたくないと思うで、なんて言いたくなって、やめた。
僕もちょうど桜のことを考えていた。
だけど健介のように、こんな真夏に花見の写真みて騒がしさを思い出すようなそれとは違う。
健介とは入学式で出会ってから4か月が経つが、
本人の言葉を借りるならば、日頃からアレだ。

「そういえば健介、彼女どうしたん。あほくさい先輩らの中におった人」

「かほ先輩?おいおい、かほ先輩はあほくさないで!」

「ごめんごめん、あほくさくないかほ先輩」

「かほ先輩とは先月別れた」

「ぶっ」

はやすぎ、別れすぎ。
健介氏、今年3度目の破局。
恋愛体質な男はめんどくさいよと兄に教わっていた僕には、悪すぎる見本や。

「健介のせいでカルピス鼻に入ったやんけ!」

僕は笑いながら、ツンとする鼻の痛みに眉をゆがめた。
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