ひだまりに恋して。
先生と一緒に掃除をすると、狭い部室は一時間くらいで綺麗になった。

先生は、窓を開け放して清々しい顔をする。



「はー、いい空気だ。お前も来いよ。」



とことこと走って行って、先生の隣に並ぶ。

窓から顔を出すと、5月の風を胸いっぱいに吸い込んだ。



「気持ちいい。」


「だろ?」



窓ひとつ分のスペースに並んだ先生は、スーツの上着を脱いで、ワイシャツの袖を捲っている。

窓の桟に肘を着いて、青いネクタイを風に靡かせながら。

ため息が出ちゃうくらいかっこいい先生を、私は思わず横目で見てしまう。



「なに。」


「……何でも!」


「ふっ。」



窓枠に肘を着いているから、私と同じ位置にある先生の頭。

なんだか無性に、先生に触れたい。

その柔らかそうな、日が当たると茶色っぽく見える先生の髪に触れたい。

華奢な肩を、抱きしめたい―――



「なに妄想してんの。」


「も、妄想なんて。」



先生は、窓枠に肘を着くのをやめた。

代わりに、その綺麗な指先を、ゆっくりと私の方に近づける。

身動きが取れないままの私は、先生に聞こえてしまいそうに高鳴る胸を、どうすることもできなくて。


先生は、私の髪を一筋すくって、するりと梳いた。



「この髪型は、校則違反だ。結ばないと。」



私の耳元で、そうささやくと、ふっと笑っていつもの顔に戻る。



「今日はもう、帰っていいよ。お掃除お疲れ。」



上着を片手に掛けて、颯爽と去って行く先生。

私は、放心したように、掃除したばかりのソファーにぽす、と座った。



「今の、なに……。」



確信犯としか思えない、先生の色っぽさ。

私の髪を梳いた指先。

わざとドキドキさせているようにしか思えない。


私は、高鳴る胸が落ち着くまで、しばらくそこに座っていなければならなかった―――
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