ひだまりに恋して。
悶々と一日を過ごして、今日が金曜日だったことに気付く。

どうしたものか、と私は思う。


行かなければ、先生に不審に思われるに決まってる。

それに、私が頼み込んだことなのに、今日は帰りますなんて。



「どうしよ。」



ため息しか出てこないよ。


だけど、嫌だと思えば思うほど時の流れは速くて。

あっという間に、放課後になってしまう。



「はあ~。」



重いカメラを手に取ると、私は写真部の部室を目指す。

こんな気持ちじゃ、どんな写真も取れないよ……。



「しつれい、します。」



小さな声で言って入ると、もう先生は先に部屋の中にいた。

私の言葉に振り返らずに、窓の向こうの夕陽を見つめている。



「……先生?」



先生は、顔を窓の向こうに向けたまま、低い声で言った。



「来たんだ。」



その冷たい響きに、思わずびくっと背中が震える。



「……えっ。」



先生は、半分だけ振り返る。

伏せた目が、夕陽をバックに陰になっている。

思わず、今すぐカメラを構えたいほど、切なくて鬱々とした先生の表情。



「キスしたの?」


「……へっ???!!!」



振り向いた先生の、色っぽい唇から、そんな言葉が発せられて。

私は、その事実が信じられずに、まじまじと先生を見つめてしまう。



「村本と、キスしたの?」



もう一度、先生ははっきりと言った。

私は、あわあわとして何も返せない―――



「先生、」


「ふっ。どーせ、高校生の恋愛なんか三か月もすれば終わるんだろ?」



冷たい口調で、先生が言い放った。

私は、先生に思い切り見下されたようで、何だか悔しくなる。

そして、むきになった。



「そんなこと、」


「そんなこと、ないの?」



先生の目が、私を射抜く。



「朝倉は、村本のこと好きなの?」



頷くことはできなくて、私は先生から目を逸らした。



「キスは、好きな人としろよ。」


「……え?」


「もういい。今日は帰っていいから。」



突き放されるように言われて、私はまたうつむく。

だけど、そう言われた以上は帰るしかなくて、私は先生に背を向けた。


振り向いて、小さく会釈をすると、私は部室を後にする。

いつもと全く違う、ブラックな先生を見た。

先生は怖かったし、ばかにされて悔しかった。


だけど、ほんの少し嬉しいと思ってしまうのは、どういうことなんだろう―――
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