ひだまりに恋して。
トントン、と肩を叩かれる。

私は、のそっと身を起こす。



「朝倉。」


「はい。」



振り返ると、そこには横内先生がいた。

夢かと思って、目をしばたかせる。



「来月のコンクールのお便り。渡してなかったと思って。」


「あ、はい。」



先生が、一枚のプリントを差し出している。

私はそれを受け取って、ぺこりと会釈をした。



「ありがとうございます。」



用事が終わっても、先生は私の目を窺うように覗き込んでいる。



「先生?」


「お前さ、当てつけ?」


「へ?」



もしかして、今朝のことを言っているのだろうか。



「そ、そんなんじゃないです!!」


「へー、そうなの。あんまりやるとやっかまれるんじゃない?」



先生は、冷たく笑って行ってしまう。

それどころじゃないのに。

私はちっとも、そんなこと望んでいないのに。



「先生!」



気付いたら先生を呼んでいた。

先生は、振り返って少し首を傾げる。



「なに?」


「あのっ、……」



でも、やっぱり言えなかった。

先輩が怖かったから。

それに、先生も、怖かったから。



「なに?ちゃんと言って。」



先生が戻ってきて、私の目をじっと見る。

だけど、言えなくて私は、首を横に振った。



「横内、今日の放課後、部室に来てくれない?」


「え、今日の、放課後ですか?」


「何かある?」


「いえっ……。」



今日は金曜日じゃないのに、どうして急に、先生がそんなことを言い出したのかわからない。



「じゃあ、授業終ったら来て。」


「あのっ、……少し、遅れるかもしれません。」


「何で?」


「えっと、」


「まあいい。待ってるから。」


「……はい。」



先輩に何をされるのか分からないけれど、私はきっと、部室には行けないだろうな、と思った。

先生にどれだけ待ってもらっても、部室には行けないだろう。


無傷で帰るなんてこと、出来るはずないんだ。


去って行く先生の背中を見つめながら、いっそのこと言ってしまえばよかった、と少し後悔した―――
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