ひだまりに恋して。
先生と一緒に、全校を回る。

自分の高校なのに、まだ行ったことのない場所は多くて、とても楽しい。



「ほら、俺こっちから確かめるから、お前あっちからよろしく。」


「はーい!」


「ってか、勝手に使っちゃって悪いな。」


「いえいえ、使ってください!いくらでも!」


「なんだそれ。」



先生と話しながら見回りをするのは、なんだかとっても新鮮なんだ。



「電気消すぞ~。」


「はい!」



真っ暗な廊下を先生を歩くとき、いつもよりもっとドキドキしてしまう。



「そういえば、先生。」


「ん?」


「今日、どうして部室に呼んだんですか?」



その質問には答えずに、先生は言った。



「この廊下の突き当りに、非常階段があるの知ってる?」


「いいえ。」


「そこ、俺の好きな場所なんだけど、ちょっとだけ行ってみない?」


「はい!」



嬉しくてたまらない。

先生の好きな場所に、連れていってもらえるなんて。



「ここ、ほんとは非常時以外立ち入り禁止だから、誰にも言っちゃダメだぞ。」


「はーい。」


「信用ならないな。」


「信用してください!」



先生は、外につながる重い扉を押し開ける。

夏が近付いているとはいえ、夜になると風が冷たかった。



「ここ。見晴らしがいいだろ?」


「わあー!」



本当だ。

何も障害物がないから、一面の夜景が見下ろせる。

盆地の地形を、丸ごと上から見下ろしているみたいだ。



「きれい!」


「昼も、なかなか解放的だぞ。夕方もいいかもしれない。今度、連れて来てやる。」


「いいの?」


「ふっ。……内緒だぞ。」



先生が隣にいて、一緒に非常階段の手すりにもたれかかって。

優しい声が、私に降り注ぐ。

今日の嫌な出来事が、私の中からすべて抜け落ちていくみたいに、幸せな気持ちになる。

盆地の夜景が、じんわりとにじんでいく。



「朝倉は、好きな人いるの?」


「え?」


「いや、あんなにイケメンな先輩、振っちゃっていいのかなって。」



先生は、楽しそうに言う。

私は、なんだかもう、止まらなくなって。



「好きな人、います。」


「そう。」


「私、先生のことが、す、」



先生は、私の唇に、しーっ、と人差し指を立てた。



「言わないよ、朝倉。」


「先生……。」


「俺は、教師と生徒、とかいう安っぽい関係の中に、お前を巻き込みたくない。」



先生は、真剣な声でそう告げた。



「卒業のとき、まだお前が俺のこと、想ってくれるなら、」



先生の言葉の続きを、息を止めて待つ。



「……そのとき、俺の気持ちも話してやる。」



先生はそう言って、少し切ない顔をした。



「先生、それって、」


「それまでは、これで我慢だな。」



そう言って、先生は。

私の顎を持ち上げて、優しく優しく―――


触れるだけのキスをした。



「なあ、朝倉。」



常夜灯が照らす先生の顔が、にやっと意地悪そうに笑う。



「好きな人とするキスって、どう?」



その言葉に、私が真っ赤になったのは言うまでもない。



「あと二年近くかあ。」



残念そうに言う先生の胸を、私は軽く叩いた。
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