ひだまりに恋して。
授業の合間の休み時間、教室に横内先生がやってきた。



「朝倉いる?」



私に気付くと、ちょっとだけ口元を緩める先生。

そんな表情に、クラスの女子がため息をついている。



「どうしたんですか?」


「別に。」



私の隣の席の子が、今日はたまたま休みで。

その席に、横内先生が座る。

机に肘をついて、至近距離から私を見つめる先生。

私は、みるみるうちに赤くなってしまう。



「な、何してるんですか。」


「ん、このアングルいいなって思っただけ。」



先生の小声は、誰にも聞こえていないはずだけど。

教室で堂々とそんなことを言ってくる先生に、私はヒヤヒヤしている。



「先生と同じクラスだったらよかったな。」


「俺がオジさんだって言いたいのか?」


「違います!……じゃあ、せめて担任だったらよかったなー。」


「そんなの無理。」


「どうして?」


「バレる。」


「ふっ。」



今まで、先生は手の届かないほど遠くにいた。

私より、ずっとずっと大人だと思ってた。


だけど、こんなとき先生は少年のように見える。

そんな先生の顔は、私しか知らない―――


先生と過ごす幸せなとき。

この幸せがずっと続くなんて保証はどこにもない。

いつか、先生の抱えているものと向き合うときが来る。

だけど、この幸せを自分から手放すことだけは、絶対にしたくないと思った。
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