ひだまりに恋して。
その日の帰り道、突然後から声を掛けられた。



「朝倉。」


「……はい?」



振り返って、その姿を見て納得する。

ええと、上原先輩だ。



「僕のこと、忘れた?」


「いいえ!覚えてますよ。上原先輩です。」


「よくできました。」



上原先輩は、目を細めて笑った。

いつもはあまり笑わない彼の笑顔に、思わずドキッとしてしまう。



「これから、写真を撮りに行くんだ。」


「あ、そうなんですか!街の風景……でしたっけ?」


「そう。僕の気に入ってる隣町のね。」


「気に入ってる街ですか?」


「気になる?」


「あ、……はい!」


「じゃあ、一緒に来て。」


「え?」


「実は、街だけじゃなくて人物も入れて撮りたいと思ってたんだ。」


「でも、モチーフになる人、決めてるんじゃないんですか?」


「ああ、僕は決めてる人いないよ。入部したときは、まだ横内先生がいなかったから。」


「あ、そっか。」


「というわけだから。よろしく。……乗って。」


「え?」



上原先輩は、さらっと言って自転車の後を指差した。



「二人乗りくらいしたことあるだろ。バレないから大丈夫だ。」


「え、でも、」


「早く。」



私は、急かされてのろのろと先輩の自転車の後ろに乗った。

いいのかな、こんなことして。

規則的なことだけじゃなくて。

だ、だけど私は……、



先生と、付き合っている?


わけじゃないし。


でも、キス……。


だけど、先生には付き合おう、とも好きだ、とも言われていない。


だからといって、先輩と二人乗りしていい、というわけではないけれど……。



ぐちゃぐちゃと考えているうちに、自転車は風を切って坂を下って行く。

頬を撫でる風が心地よい。



「ちゃんと掴まってろよ。」



遠慮がちに掴んだ先輩の背中は、ひだまりのようにぽかぽかと温かかった。
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