ひだまりに恋して。
「着いた。」



上原先輩が、ゆっくりとブレーキをかけて自転車を止めた。

私は、ひらりと自転車の後ろから下りる。



「ここですか?」


「そう。ここ。」


「何ていうか……、思ってたより普通……。」


「ははっ。だから言っただろ?何てことない街の風景だって。」



上原先輩に連れられてやってきたのは、隣町のはずれ。

私の住んでいる町よりも、もっと寂れてる感じの場所。

ずっと昔からやっていそうなタバコ屋さんや、人がいるのか分からないような家が、軒を連ねている。

至る所に、やたらとネコがいて、こっちを見張ってる。



「どこで撮るんですか?」


「この辺かな。この空家、前からいいなと思ってたんだよね。」


「これ?」


「そう。なかなか風情があるだろ?」


「風情……。」



私には、上原先輩の感性はなかなか理解できない。

私は、写真の技術や知識なんてほとんど持っていないから、どうしても綺麗なもの、美しいものを撮りたいと思ってしまうんだ。

だけど、上原先輩が撮ろうとしている空家は、庭が荒れ放題で草が生い茂っていて、窓ガラスも割れていたりしてオバケが出そう……。



「この門、開かないかな。……おっ、開いた。朝倉、来て。」


「えー、ここ入るんですか?」


「この草むらの中に立ってほしいんだ。」


「虫に刺されそう……。」



ぶつくさ言いながらも、私は門の中へと入って行った。

その後ろ姿を、何枚もパシパシと撮られる。



「朝倉、じゃあそのまま、家をバックに空を見上げて。」


「こうですか?」


「そう。そんな感じ。」



夕陽が眩しくて、思わず目を眇めたところをパシリと撮られる。

私でいいのかな、と思ってしまう。



「じゃあ、今度はうつむいて。そう。右足を出して。」



先輩が細かい注文を出して、私は何度もポーズを取った。

撮られることに、悪い気はしないけれど……。



「ありがとう。もう十分だ。」



上原先輩は、私を見つめるとにこっと笑った。

ああ、その笑顔、撮りたいなと思う。

上原先輩は、どちらかというと派手なタイプの横内先生とは対照的だけど。

でも、どこか似ている。

それは、その笑顔なんだと気付いた。

何かを抱えているような、切なげな笑顔なんだと―――



「さ、帰ろう。付き合わせて悪かったね。」


「いえ。」


「明日、現像するから。もしよかったら、それも見に来て。」


「あ、それ見たいです。」


「うん。じゃあ明日の放課後、暗室に来て。」



先輩は、その後何枚か町の風景を写真に収めた。

そして、私を自転車の後ろに乗せて、元来た道を引き返したんだ。
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